マカオのカジノに圧力を強める習近平の狙いは
国外に広がるチャイニーズマフィアとグレーな資金に懸念も
- 2023/1/28
黄金期は終わっても…
では、中国内でカジノを必要としていた潜在的な顧客、つまり、巨額のチャイナマネーを当局に内緒で洗浄し、海外に移送したい大富豪たちは、今後、どこに向かうのだろうか。
一番考えられるのは、マカオ以外にある華人資本のカジノではないか。今、注目されているのは、貴金属企業から発展した香港の大コングロマリット、周福大だ。
アジア・オセアニア地域に向けてテレビ番組などを放送しているABCオーストラリアによると、オーストラリアのクイーンズランドに香港の貴金属企業である周福大が投資するカジノ・リゾート開発プロジェクトには、香港マフィアが関与しているという。
1992年に周至元によって創業された周福大は、今や周至元に婿養子に入った鄭裕彤の鄭一族が支配する大コングロマリットだ。この周福大もマカオのカジノ産業に進出していたが、その時、掛け金の回収や治安維持を、スタンレー・ホーとともに、14Kや新義安などの香港三合会系マフィアに任せていた。また、アルバン・チャウが逮捕される以前の2014年には、サンシティとの共同プロジェクトとして、ベトナムのホイアンでカジノ・リゾートの開発を進めていた。こうしたプロジェクトは、ケイマン諸島などタックスヘイブンに創られたダミー会社を経由して進められてきた。ABCオーストラリアは、周福大の背後に、元14系列の武闘派マフィアで、今は中国の政治協商委員を務める実業家の尹国駒がいるのではないかとの疑惑も報じている。尹国駒は、マカオ警察署長の車両が爆破された事件の容疑者として逮捕され服役した後、2012年に出所した人物だ。アルバン・チャウがジャンケット企業を立ち上げる際、服役しながら出資した人物でも知られている。
出所後、尹国駒はサンシティの株の譲渡をめぐってアルバン・チャウと大喧嘩して絶縁した。しかし、その後、いつの間にか中国共産党に食い込み、習近平の一帯一路戦略に乗じる形で、カンボジアやベトナム、パラオなど、東南アジアや南太平洋諸国でカジノ・リゾートの開発に携わる実業家になった。
スタンレー・ホーが没し、アルバン・チャウが投獄されたことで、一見、マカオ・カジノの黄金期は終わったようにも見える。しかし、その反面、中国国外の一帯一路戦略の沿線に中国人向けカジノが広がりつつある。これは、すなわち中国のグレーな金が世界各地に拡散するということであり、それを扱うチャイニーズマフィアが世界で暗躍するということでもある。そしてそれは、彼らを利用する中国共産党の統一工作戦線についても警戒しなければならないということも意味している。