中国のRCEP締結は「一帯一路PLUS版」
WTO加盟を上回る追い風で米国との対立は新ステージへ
- 2020/11/27
中国の覇権時代が到来か
もっとも、すべて中国の思い通りに進むわけではない、という見方もある。人民元に対する信用は依然として低いため、そう簡単には人民元決裁圏にならないだろう、というのが一つの理由だ。台湾人エコノミストの呉嘉隆氏はメディアの取材に答え、「中国のドル準備高は十分ではないため、従来ほどは大輸出市場にならないだろう」との見方を示している。
一方、中国自身は輸出国として主導権を握ろうとするかもしれないが、安価に大量の製品を輸出する「世界の工場」としての競争力は、東南アジア諸国と同等か、やや負けているのが実態だ。ハイテク製品輸出ということであれば、農業市場における「コメ」同様、ハイテク産業市場における「半導体」を完全に国産化できるか否かがカギを握るだろう。
その点で言えば、RCEPに加盟しなかった台湾は、半導体製品の完全国産化、すなわち上流のIC設計から製造、テスト、さらに半導体設備にいたるまで、産業チェーン全体を自前で行う力を持っている。今更だが、日本はRCEPの調印を急ぐより、環太平洋パートナシップ協定(TPP)に台湾を加盟させて日本主導で自由貿易圏を確立することに力を注ぐべきだったのではなかったか。
米国ジョージア州にあるケネソー州立大学経済金融学部の劉学鵬教授は、米政府が運営するラジオ放送ボイスオブアメリカの取材に対し「RCEPは他の地域的な貿易協定と比べて不十分な点が多く、過大評価すべきではない」と、答えている。また、シンガポール大学東南アジア研究所でシニア研究員を務める陳剛氏も「中国のハイテク企業が米国から課されている禁輸制裁をRCEPによって突破できるかと言えば、その効果はかなり限られるだろう」と、指摘する。
協定は今後、各国政府が正式に批准した上で、二年以内に発効する予定だ。とはいえ、加盟国間の経済水準には大きな格差があり、おそらくさまざまな形で個別に特殊かつ差別的な待遇や免責条項を用意する必要が出て来るだろう。
さらに、日本以外のほとんどの加盟国は、もともと中国との間で自由貿易協定を締結している。つまり、中国にとってRCEPの短期的かつ最大の成果は、日本と正式協定を結ぶことができたことだと言っても過言ではない。とはいえ、日本にしてみれば、米国の利益に背くことはできない。米国がバイデン政権に変わり、TPPに復帰するなら、日本もやはりTPPを通じて中国包囲網を築くことに軸足を置くことになるかもしれない。
いずれにせよ、中国はRCEPを通じて、短期的利益ではなく、長期的な視野に立った戦略的な意義を見据えている。日本も、目の前の経済的、あるいは企業的な利益だけでなく、そうした中国の狙いに十分に警戒していなければ、中国の覇権時代を招くことになる。