中国とソロモン諸島の安全保障協定案がリーク
南太平洋海域に打ち込まれた布石で西側世界に激震
- 2022/3/28
地政学上の要衝地で崩れるパワーバランス
第二に、これまでオーストラリアやニュージーランドなどがメラネシア島嶼国と連携し、維持していた安全保障のフレームワークに中国が強引に入り込むことで、パワーバランスが崩れて不安定化する可能性が高まるだろう。
これは、台湾の併合を渇望する中国の目的が、民族統一という建前にとどまらず、台湾が中国にとって、米国に対抗して太平洋に進出するための足掛かりであることとも関係する。台湾を併合すれば、いわゆる「第一列島線」を構成する民主主義国家間の鎖を断ち、小笠原諸島からグアム、パラオ、パプア・ニューギニアにいたる「第二列島線」に迫ることが可能になる。中国の真の狙いが、ハワイを中心にした西側から米軍を追い出し、中国が支配することにあるのは、すでに周知の事実だ。第二列島線の向こうにあるソロモン諸島に中国の軍事拠点を置くことができれば、強い警戒心を持つ台湾の併合は後回しにしても構わないことになる。
ソロモン諸島は、先の世界大戦で、日本が文字通り死守しようとした激戦地だった。この歴史を考えれば、この海域の軍事バランスや安全保障の枠組みが変わることは、まさに戦争に直結しかねないほど地政学上の要衝だ。中国を封じ込めるために、日米豪印戦略対話(クワッド)や豪英米(AUKUS)などインド太平洋の民主主義国による安全保障枠組みが講じられているのも、そのためだ。
今年1月、米国家安全保障会議でインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏は、「今後1~2年の間に、戦略的に意外性のある事態が起こり得る」と予言し、懸念される最悪の事態として、南太平洋島嶼国のどこかに中国が軍事基地を建設することを挙げていた。中国とソロモン諸島の安全保障協定が正式に調印されれば、その不吉な予言があたることになる。東欧の安全保障を揺るがしているウクライナ戦争と対になるもう一つの戦争の足音は、日本から5000キロ以上離れた南太平洋から聞こえてくるかもしれない。