「グレート・リセット」と中国の野望
世界に広がる中華秩序と日本の立ち位置
- 2021/1/24
ダボス会議とリセット後の行方
毎年1月にスイス・ダボスで年次総会を開き、斬新的なコンセプトを打ち出す世界経済フォーラム(WEF)が、ポスト・コロナの世界経済秩序について「グレート・リセット」という概念を提唱した。このリセット後の新しい経済秩序モデルについて、筆者の中にある懸念がくすぶっている。グローバリストな富裕層たちは、今後の世界像として、中華的な権威主義的資本主義、つまり、今の中国の特色ある社会主義体制をイメージしているのではないだろうか。少なくとも習近平自身は、そういう意欲をもって1月25日のWEFダボス・アジェンダ対話でオンラインスピーチをすることだろう。
人類の運命共同体の構築や、脱炭素社会、ワクチンを含む新型コロナ対策の支援を打ち出すとともに、人民元を切り下げるつもりがないことを訴え、中国共産党政権の指導力をアピールし、中国が今後の経済基軸の一翼を担うのだというシグナルを発するかもしれない。この時、世界のグローバリスト資本家やエスタブリッシュメントらがどう受け止め、主要メディアがどう報じるかによって、ポスト・コロナ後の中国の立ち位置や役割を世界がどう見ているかが見通せるかもしれない。
個人的には、ポスト・コロナ後に一極時代が到来するにせよ、二極時代、あるいは多極時代がくるにせよ、中国の経済秩序や価値観の世界に日本が組み入れられることは、避けたい。日本は、アジア国家の中で中華秩序に組み入れられた経験がないほぼ唯一の国家であるうえ、現在の中国共産党政権の正統性は、日本を敵とする歴史観に担保されているからだ。日本は中国共産党政権から敵視されざるを得ない運命を背負っている。
だからこそ、グレート・リセット後の世界を考える時、日本として目指すべき理想の新たな経済秩序や価値観モデルを発信してはいけないのか、という模索が必要なのだ。今回のダボス会議のオンライン対話に出席する菅義偉首相にさほど何かを期待するものではないが、せめて人権や法治を含む普遍的価値観が中華秩序圏では守られていない現実について、一言なりとも言及していただければと願う。