緊迫するウクライナ情勢と一帯一路戦略
米露対立に乗じて台湾有事をちらつかせる中国の思惑を読む
- 2022/2/4
百年に一度の大変局を迎えた世界と日本
さて、こうしたロシアの思惑を想定したとして、中国はどう動くだろうか。中国にとって、米国および西側との現在の関係は、改革開放以来、最悪だ。だが、ウクライナ東部がロシアに併合され、ウクライナが分裂すれば、中国のこれまでの対ウクライナ投資が無駄になりかねない。また、国連安全保障理事会常任理事国の中国として、ウクライナの主権と領土保全の約束、核脅威に対する安全保障の約束を守る責任が問われる。
一方、ウクライナ危機がさらにヒートアップし、米国・NATOが東欧に軍を増派することになれば、その分、インド・太平洋、台湾海峡に割かれていた米軍兵力は減るだろう。これを中国にとってチャンスととらえることもできるかもしれない。
中国の習近平政権は2019年、俗に「習五条」と呼ばれる台湾政策を発表して以降、台湾の武力統一論を盛り上げてきた。今年2022年秋に開かれる党大会で習近平が三期目を連任すれば、本格的に長期個人独裁体制に入ることになり、毛沢東、鄧小平以来のカリスマ指導者として君臨し続けるためには、台湾統一という偉業を成し遂げる必要がある。
そういう状況で習近平政権がとりうる一つの戦略としては、「ロシアがウクライナに侵攻すれば、連携して中国の台湾侵攻もあり得る」と国際社会に思わせることではないだろうか。そうすれば、二正面作戦を避けるために、米国はロシアに譲歩しやすくなる。あるいは、中国との関係緩和を模索するかもしれない。
中国が1月24日に最新鋭の電子作戦機J-16D(レーダーや通信システムなどをかく乱・無力化する)を台湾の防空識別圏に飛来させたり、体制派の学者で中国人民大学の金燦栄教授が日経新聞(1月31日付紙面)の取材に答え、「習近平政権は2027年までに台湾の武力統一に動くだろう」と語ったりしたのは、中国があたかも台湾の武力統一に向けて具体的な作戦の準備段階に入ったかのような印象を与えるためかもしれない。あるいは、素振りではなく、チャンスがあれば、本気で台湾を獲りにいくかもしれない。ウクライナ侵攻も台湾侵攻も、最初は交渉のための脅しのつもりであったとしても、実際に兵力を展開していれば、いつ現実に起きてしまうか分からないのだ。
今、世界は百年に一度の大変局の時代に入った。ロシアが米中対立を利用するように、中国もまた、米露対立を利用しようとしている。米国が中露離間の戦略を見出せれば、また別の局面も見えてくるかもしれない。
日本にとってウクライナ問題は遠い東欧の出来事のように思われるかもしれない。しかし、もし台湾有事とセットだとすれば、それは日本の安全保障に関わる問題だ。ここで日本として何ができるかと言えば、外交資源の乏しい今の政権では限界があろう。世界の安全保障構造の再構築のプロセスにおいて米国一極時代が終焉するのなら、同盟国である日本の軍事的役割をどう考えるかは、焦眉のテーマだ。