ロシア・ウクライナ和平に向けた中国の仲介外交が始動
ゼレンスキー大統領と電話会談に臨んだ習近平国家主席の真意とは

  • 2023/4/30

警戒すべき「野心みなぎる覇者」

 私個人の見立てを言えば、習近平が真に臨んでいるのはロシア・ウクライナの停戦ではなく、台湾統一を含むアジアの安全保障の枠組みの再構築のための布石を打つことであろう。それはすなわち、「100年に一度」とも言われる大変革の時代において、国際社会の枠組みを再構築する主導権を握るための布石だ。

 習近平が掲げる「中華民族の偉大なる復興」「中国の夢」「人類運命共同体構築」とは、米国式現代化(民主化)に対抗する発展モデルとして、「中国式現代化」を新たな選択肢としてグローバルサウスに提示することで、西側の自由主義陣営に対抗できる中国式秩序と価値観を持った陣営・中国朋友圏を形成し、できれば米国に代わる国際社会のルールメーカー、そして世界の領袖になりたい、ということにほかならない。台湾統一は、そのプロセスの重要な一環だ。

 そのためには、ロシア・ウクライナ戦争がたとえ停戦合意に至らなくても、中国が和平協議仲介のために努力して見せることによって次の三つの目標が叶えば、中国としては十分に成功だと言える。すなわち、

 ①プーチンを守り、ロシアに親米政権を作らせず、ロシアの対中依存を深める。

 ②国際社会の期待を集め、かつての六カ国協議の時のようにスポットライトを浴びて一時的に高まる信用を利用し、中国式現代化や中国式和平を国際社会に浸透させる。

 ③EUと米国を分断させる。米国のレームダックを印象付け、戦争で疲弊したウクライナ国家再建に関わるチャンスをつかみ、EUの安全保障の枠組み再構築に中国が干渉できる布石を打つ。

 そう考えると、中国が語る和平とは、つまり「米国の民主主義の価値観を破壊し、中国式現代化、中国式民主を国際社会のスタンダードにしよう」という野望の隠れ蓑に過ぎない。西側の民主主義陣営の国々からすれば、「平和の使者」として中国に期待を寄せるより、むしろ「野心みなぎる覇者」として警戒を高めるべきだと思うわけだ。

 

ページ:
1

2

関連記事

 

ランキング

  1.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  2.  2021年2月に起きた軍事クーデターをはじめ、大雨による洪水や未曾有の大地震など、苦難が続くミャン…
  3.  私がチュニジアを訪ねてから、1年が経とうとしている。留学していたイギリスの大学院で履修していたアラ…
  4.  第2話では、ヨルダンの首都・アンマンに住むパレスチナ人二世シナーンさんの話を通じて、パレスチナ問題…

ピックアップ記事

  1.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  2.  トランプ米大統領が打ち出す相互関税、いわゆる「トランプ関税」が世界を震撼させている。4月9日に発動…
  3.  2月23日に行われたドイツの連邦議会選挙によって、極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」…
  4.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  5.  2025年3月28日(金)日本時間15時20分ごろ、ミャンマー中部でマグニチュード7.7の大地震が…
ページ上部へ戻る