月刊ドットワールドTV#23振り返り ダッカ・テロ事件から10年 問い続ける理由
事件を記憶することは、未来を考えること

  • 2026/7/30

 2016年7月1日にバングラデシュの首都ダッカで発生したホーリー・アーティザン・ベーカリー襲撃テロ事件から10年。『月刊ドットワールドTV』 #23(2026年7月28日18時~)では、長年バングラデシュを研究している立教大学准教授の日下部尚徳さんをゲストに迎え、論考「バングラデシュ ダッカ・テロ事件から10年」(2026年7月10日付)をもとに事件を改めて振り返りました。

 事件では外国人ら28人が犠牲となり、国際協力の業務で現地に滞在していた日本人7人も命を落としました。日本社会にも大きな衝撃を与えたこの事件ですが、番組では事件そのものを振り返るだけではなく、なぜ事件が起きたのか、その後バングラデシュ社会はどう変化したのか、そして私たちは何を学ぶべきなのかという視点から語り合いました。

「あの日」だけでは見えてこない事件の背景

 日下部先生はまず、「事件を理解するためには、それ以前のバングラデシュ社会を見つめる必要がある」と指摘しました。

 現地では2013年頃から無神論者のブロガーや宗教的少数派、外国人を狙った襲撃事件が相次ぎ、社会には徐々に不穏な空気が広がっていました。その背景には、当時のハシナ政権下で進められていた1971年の独立戦争をめぐる犯罪裁判や政治的な対立、イスラム主義勢力の台頭、SNSを通じた過激思想の拡散など、複数の要因が重なっていたと先生は振り返ります。

 また、実行犯の多くは貧困層ではなく、中流以上の家庭で教育を受けた若者たちでした。「貧困がテロを生む」という単純な図式では説明できないことも、この事件が投げかけた大きな問いでした。SNSなどを通じて過激な思想に触れ、社会の分断が深まるなかで暴力へと向かっていった背景は、日本を含む世界各国にも通じる課題と言えるでしょう。

 番組では、事件を一日だけの出来事としてではなく、社会の変化の積み重ねとして捉えることの重要性が繰り返し語られました。

テロ後のバングラデシュは何が変わったのか

 事件後、バングラデシュ政府は徹底したテロ対策を進め、治安は大きく改善しました。外国人が以前のように街を歩ける環境も徐々に戻り、過激派による大規模テロはほとんど発生していないといいます。

 一方で、その過程では治安維持を名目とした監視や言論統制も強まり、表現の自由や民主主義をめぐる課題が指摘されるようになったと日下部先生は指摘します。

 そのうえで先生は、「安全」と「自由」は対立するものではなく、本来は両立を目指すべきものだと強調しました。社会の安定を守ることと、多様な意見を認め合うことのバランスをどう取るのかという問いは、バングラデシュだけでなく、世界各国に突き付けられています。情報があふれ、自分と異なる意見を排除しやすくなった現代社会のあり方についても考えさせられる内容となりました。                                               

バングラデシュを知り、日本を見つめ直す

  番組の終盤で印象的だったのは、日下部先生が「バングラデシュで起きていることは、程度の差こそあれ、日本社会とも決して無縁ではない」と語ったことです。

 SNSによって価値観の近い人同士が集まり、異なる意見を持つ人との対話が難しくなること。政治や宗教、社会問題をめぐって分断が深まること。こうした現象は、世界各地で共通して見られるようになっています。

 だからこそ、遠い国の出来事として片づけるのではなく、その背景を知り、自分たちの社会と重ね合わせて考えることが大切なのではないか――。今回の番組は、ダッカ・テロ事件から10年という節目を通して、「世界各地から見た世界の姿や価値観を知ることは、日本を知ることでもある」というドットワールドの原点を改めて感じさせる内容となりました。

 番組では、日下部先生が地域研究者として見つめてきたバングラデシュ社会の変化と、その先にある未来への示唆について、より詳しく語っています。ぜひ以下からアーカイブもご覧ください。

ダッカ・テロ事件から10年私たちは何を問われているのか 『月刊ドットワールドTV』

世界を知る、今月の新着記事

 番組ではこのほか、ドットワールドの新着記事もご紹介しました。

 「報道を読む」では、ネパールとバングラデシュの医療制度が抱える課題を取り上げたほか、イラン情勢をめぐるインド・パキスタン両国の報道ぶりなど。各国メディアの論調を通して、世界で起きている出来事を多角的に読み解いています。

報道を読む | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 また、「社会を読み解く」では、前出の日下部先生の論考のほか、遊びを通じて遠い国の文化や暮らしを身近に感じられるユニークな「ヤンゴンかるた」と「シリアかるた」のコラボイベントの取材記事や、南米コロンビアの大統領選で軍事力による領土奪還と治安回復を掲げる右派候補が勝利したことへの住民の声を伝える記事などを掲載しています。

社会を読み解く | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 「世界写真館」では、ミャンマーの僧院で静かに祈りを捧げる男性の後ろ姿や、インドの山間部を走る観光列車で寄り添う幼い兄妹のワンシーンを掲載。ニュースでは伝わりにくい、世界の日常の一コマをお届けしています。

世界写真館 | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト

 さらに、月刊ドットワールドTVの配信後には毎回、振り返り記事も掲載しています。

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 ドットワールドは、これからも記事や写真、そして「月刊ドットワールドTV」を通じて、現地の人々から見た世界の姿やさまざまな価値観、喜怒哀楽を伝え、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を実現する一助となることを目指します。

 引き続き、ご支援のほど宜しくお願いいたします。

 

 

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