AIの進化に社会は追いつけるか 問われる規制と監視のあり方
インドネシア紙とインド紙が訴える、法整備と独立した監視の必要性

  • 2026/10/24

 人工知能(AI)の活用が急速に広がり、私たちの暮らしや仕事、社会の仕組みを変えつつある。農業や医療、金融など幅広い分野で利便性が高まる一方、詐欺や偽情報の拡散など、新たなリスクも生まれている。

 AIの発展を妨げずに、人々の安全や権利をどう守るのか。インドネシアとインドの英字紙は、それぞれ法整備と独立した監視の必要性を訴え、政府や企業に責任ある対応を求めている。

(c) Roman Budnikov / Unsplash

AIの発展を支えるために、法整備を

 インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、9月21日付の社説で、AIの普及が進む社会における法整備の必要性を訴えた。

 社説は、インドネシア国内のAIの浸透ぶりについてこう紹介している。

 「AIはもはや遠い未来の話ではなく、インドネシアの現在を支えるインフラとなっている」

ジャワ島の農村部では、農作物の収穫量の最適化に、ジャカルタでは金融サービスの融資判断の効率化に、地方の病院では医療リスクの予測に、AIが活用されているという。

 一方で、AIがもたらす「深刻な害」にも触れており、高齢者を標的とした詐欺や、世論を操作する目的の精巧な偽動画・偽音声(ディープフェイク)の拡散、知的財産の盗用などを挙げている。

 インドネシア政府はこうした動向を認識し、国家AIロードマップやAI倫理に関する枠組みの草案を取りまとめた。これらを基にした大統領規則案も準備されており、社説はこうした取り組みを一定程度評価している。

 しかし、これほど社会への影響が大きい技術について、大統領令や行政令だけに頼るのでは根本的に不十分だと指摘する。こうした規則だけでは、民間企業に法的責任を課したり、重大な違反に制裁を科したりするための十分な根拠にならないというのだ。

 技術の進歩に法律の整備が追いつかないことは、これまでも繰り返されてきた。しかし、AIは普及の速さに加え、仕組みが分かりにくく、社会に与える影響も大きい。被害が発生してから規制するという従来の対応では、市民を守れない恐れがあると、社説は警鐘を鳴らし、次のように訴える。

 「革新的かつ安全なAIエコシステムを構築するためには、インドネシアは倫理原則を拘束力のある法律として確立しなければならない」

 その一方で、社説は、スタートアップ企業や開発者、クリエイターたちが、創業初期の段階で新しい技術を自由に試す余地を確保することも重要だとしている。

 AIの可能性を狭めるのではなく、人々が安心して活用できる環境を整えること。そのために、技術の進歩を見据えた法整備が求められている。

AI企業任せにしない安全性の確保

 一方、インドの英字紙、インディアン・エクスプレスは、9月28日付で「AIの安全性をシリコンバレーに任せてはならない」と題した社説を掲載した。

 社説が警鐘を鳴らすのは、人間の指示に基づいて自律的に作業を進める「AIエージェント」の危険性だ。米国とオーストラリアでは、AIエージェントが政府のシステムに侵入を試みた事例が報告された。被害は限定的だったとみられるものの、政府側がこうした異常な動作を検知できなかったことに、社説は強い懸念を示している。

 AIエージェントが、開発企業の想定しなかった動作をする可能性がある。しかも、政府のシステムには市民の機密情報が含まれ、公共サービスを支える重要な機能も備わっている。AIが安全上の制約を単なる障害物とみなして回避しようとすれば、深刻な被害につながりかねない。

 社説によると、AI技術の発展に伴い、業界に対して、より厳格な安全基準や国際的な連携を求める声が高まっている。

 アメリカのOpenAIのサム・アルトマン氏や、Anthropicのダリオ・アモードイ氏ら、AI開発企業の経営者たちも、国連安全保障理事会での説明の場で、自律性が高まるAIシステムの安全性を、開発企業だけに委ねることはできないとの認識を示したという。

 つまり、AI企業による自主的な安全性の検証や、開発過程の透明性の確保、問題が起きた時の報告は不可欠であるにしても、それだけでは十分ではないということだ。開発企業から独立した立場で、安全性を検証・監視する仕組みが欠かせない。

 インドでは、2026年の「AIガバナンス指針」が、こうした取り組みの基盤になるという。ただし、独立した監視を実効性のあるものにするには、最先端のAIシステムを検証できる技術的な専門知識だけでなく、必要な調査や対応を行うための「権限」も必要になる。

 AIの発展を促すのか、それとも規制を強めるのか。

 社説は、そうした二者択一ではなく、技術革新と安全性の確保を両立させるために、どのような制度や監視体制が必要なのかを考えるべきだ、と投げかけている。また、AIエージェントが国境を越えて瞬時に活動できることを踏まえ、社説は、安全性の評価やサイバーセキュリティー対策、事故の報告などについて、国際的な基準を設ける必要性も訴えている。

                       *

 インドネシア紙が求めるのは、AIの安全性を確保するための倫理原則を、法的拘束力のあるルールへと発展させることだ。一方、インド紙は、企業による自主的な対策に加え、独立した立場からAIの安全性を検証する仕組みの必要性を訴えている。

 AIの技術革新を促すことと、人々の安全や権利を守ることは、必ずしも対立するものではない。急速に進化するAIを、社会はどのようなルールのもとで活用していくべきなのか。二紙の社説は、そのための制度づくりを先送りにできないことを示している。

 

(原文)

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2026/09/21/safeguarding-indonesias-ai-future?utm_source=(direct)&utm_medium=channel_editorial

 

インド:

https://indianexpress.com/article/opinion/editorials/ai-agents-government-systems-security-risks-10896625/

 

 

関連記事

 

ランキング

  1.  2021年2月のクーデターから5年あまりが経ったミャンマー。2025年末から2026年初めにか…
  2.  アメリカと中国は、2026年9月に開かれた首脳会談で、人工知能(AI)のリスク管理に向けた対話…
  3.  タリバンがアフガニスタンで再び政権を掌握してから、今年8月で丸5年。その節目に…
  4.  ネパールと中国の国境沿いで8月26日、大規模な鉄砲水と土石流が発生しました。原因の一つとして指摘さ…

ピックアップ記事

  1.  2026年8月、ネパール中部を大規模な土石流が襲いました。ヒマラヤでは気候変動に伴う氷河の融解…
  2.  2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン州でロヒンギャの武装勢力が国境警察施設を襲撃したことを…
  3.  ミャンマー西部ラカイン州に多く暮らす少数派イスラム教徒ロヒンギャ。長年にわたり市民権を認められ…
  4.  2016年7月1日にバングラデシュの首都ダッカで発生したホーリー・アーティザン・ベーカリー襲撃テロ…
  5.  2016年7月1日夜、バングラデシュの首都ダッカで、日本人7人を含む多くの命が奪われたホーリー…
ページ上部へ戻る