藤元明緒監督『LOST LAND/ロストランド』が第82回ベネチア国際映画祭に選出
長編第3作目はロヒンギャの人々の旅路を描いた物語 2026年春に日本公開が決定

  • 2025/7/22

 藤元明緒監督の最新作『LOST LAND/ロストランド』が、第82回ベネチア国際映画祭で「オリゾンティ・コンペティション部門」に選出された。世界で最も迫害されているとも言われる少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々の証言を元に紡がれた物語で、容赦のない現実とファンタジーが入り混じる寓話的な世界観のなか、難民たちが辿る旅路を子どもの視点から描いた作品だ。イタリアのベネチア国際映画祭は、フランスのカンヌ映画祭や、ドイツのベルリン映画祭に並ぶ世界三大映画祭の一つで、今年は8月27日から9月6日まで開かれる。

『LOST LAND/ロストランド』の一場面より ©2025 E.x.N K.K.

 藤元監督は、日本に住むミャンマー人家族の物語を描いた長編『僕の帰る場所』(日本=ミャンマー)で2018年にデビューした。2021年にはベトナム人技能実習生を題材にした『海辺の彼女たち』(日本=ベトナム)でPFF(ぴあフィルムフェスティバル)第3回大島渚賞、「新藤兼人賞」金賞を受賞するなど、映画界の注目を集める存在である。

 今回、新しい潮流や革新的な表現に焦点を当てた公式部門「オリゾンティ・コンペティション部門」に選出された『LOST LAND/ロストランド』は、祖国を離れて移住を強いられた人々と、彼らを取り巻く地域社会の物語をテーマに据えて制作を続けてきた藤元監督の長編三作目。無国籍の幼い姉弟が家族との再会を願い、いくつもの国境を命懸けで越えていく希望のロードムービーとなっている。日本、フランス、マレーシア、ドイツの国際共同製作で、全編にわたり海外ロケで撮影された。主演の姉弟をはじめ、総勢200人を超える出演者たちは皆、ロヒンギャ。演技は全員が未経験だが、当事者ならではの彼らの声と眼差しが、映画の世界にリアルな強度を与えている。

 ベネチア映画祭の選考委員は、7月22日に開かれた記者会見で、同作品について「家族と離れて逃亡を余儀なくされたロヒンギャの姉弟が、ミャンマーからマレーシアへと向かう旅のなかで直面するさまざまな困難や数奇な運命を二人の子どもの視点から描いた本作品は、フィクションでありながらドキュメンタリーのような色合いも帯びている」と評した。また、藤元監督は「平時とはほど遠いこの時代に自分たちにどんな映画を作れるのか、映画に何ができるのかと悩み続けた先に、この作品が生まれました。映画の力を信じ、支えてくださった方々のおかげで、本作を世界に向けてお披露目できることを嬉しく思います」「出演してくれた人たちの願いが、どうか多くの人の心に届きますように」と、受賞の喜びを話している。

藤元明緒監督 ©2025 E.x.N K.K.

 2021年2月1日にクーデターが発生したミャンマーでは、軍の弾圧が今なお続いており、現地の人権団体・政治犯支援協会(AAPP)によれば、2021年2月1日以降、拘束された人は累計2万9000人を超え、6980人が殺害された(2025年7月22日時点)。さらに、今年3月28日には中部の古都マンダレー付近を震源とする大地震にも見舞われ、甚大な被害が出ている。他方、同国では、長きにわたり少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々に対する迫害が続いている現実もあり、近隣国に逃れた人々も、アメリカのトランプ政権が打ち出した食料や教育支援の停止などの影響から危機的な状況に陥っている。
 戦闘や災害が各国で相次ぎ、世界から忘れられようとしているロヒンギャの人々を描いた『LOST LAND/ロストランド』は、日本ではキノフィルムズが配給、ミラクルヴォイスが宣伝を担当し、2026年春に公開される。

 

藤元明緒監督

1988年、大阪府生まれ。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映画制作を学ぶ。在日ミャンマー人家族を描く初長編『僕の帰る場所』(2018年)が第30回東京国際映画祭アジアの未来部門 作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞。2021年、ベトナム人技能実習生を描く長編第二作『海辺の彼女たち(日本ベトナム国際共同製作)』を公開。同作品はPFF第3回「大島渚賞」、2021年度「新藤兼人賞」金賞、第13回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、第31回日本映画批評家大賞・新人監督賞などを受賞。主にミャンマーなどアジアを舞台に合作映画を制作し続けている。

 

 

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