存在感を高める中国をアジアはどう見ているか
ウクライナ情勢とブータンの領土問題を報じるシンガポールとインドの社説を読む
- 2023/4/23
中国の習近平国家主席は3月20日、モスクワを訪れてロシアのプーチン大統領と会談した。両首脳は2日間、10時間以上にわたって会談後、共同声明を発表。「両国関係は歴史上最高レベルに達した」と、良好な関係を強調した。
中露の共同声明に失望感
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、3月27日付の社説で「中国とロシアの首脳会談後に発表された共同声明は、ウクライナにおける戦争の終結につながるものになるだろうという期待を打ち砕く内容になった」と、評した。
社説は、「ロシアが主権を持つ独立国に侵攻したことによって戦争が始まったにも関わらず、共同声明はウクライナ問題を“戦争”と呼ぶことを拒んだ。さらに、ロシアの対応は安全保障上、正当なものだと肯定した」と述べ、両国の姿勢を非難した。
さらに社説は、かつて中国が、イランとサウジアラビアの敵対関係を緩和する役割を果たしたことを引き合いに出し、「中国が今回も平和の構築者としての役割を果たせば国際社会は歓迎しただろう」と期待感があったことを指摘したうえで、「残念ながら期待は外れた」と述べた。
ただ、社説は、中国側がロシアに武器を供与することを示唆しなかったうえ、両国を結ぶパイプラインの建設も約束しなかったことにも言及した。もしこの2点が実行されれば、「前者は中国をロシアのウクライナ侵攻に加担させることにつながり、後者はロシアの戦争継続さを中国が経済的に支援することになる」ためだ。
また、中国とロシアが首脳会談を開いている間に岸田文雄首相がウクライナを訪問したことにも触れ、「ロシアが世界の秩序を乱していることにアジアが反対していることを示す重要なデモンストレーションだ」と位置付けた。最後に社説は、世界が二極化していることについて「誰にとっても良い兆候ではない」としたうえで、「東南アジア諸国は世界の分裂に対して結束を促す努力をしなくてはならない」と、訴えた。
周辺国との関係強化を訴え
世界における中国の存在感について、もう一つの大国であるインドの英字紙、タイムズオブインディアは、3月30日付の社説で「インドは、ブータンからバングラデシュまで、中国と影響力を競う準備をしなければならない」と主張する記事を掲載した。
きっかけは、ブータンの西部に位置するドクラムにおける紛争をめぐる同国のロテ・ツェリン首相の発言のようだ。ドクラムでは2017年に、ブータンを支援するインド軍と中国軍がにらみ合うなど、ブータンと中国の間の領土問題をめぐって中印対立が起きている。社説によれば、ツェリン首相は「ドクラム紛争の解決については中国にも発言権がある」と紹介し、「ブータンがこれまでより中国に対して融和的な姿勢を示している」と評した。
さらに社説は、中国がブータンのみならず、インドの周辺国に経済的な支援を通じて影響力を行使しつつあると述べ、「中国は20年以上にわたり、22カ国の開発途上国に対して2400億ドル相当の融資を行ってきた」と指摘した。
社説はしかし、そうした中国の経済支援から距離を置かせようとネパールやバングラデシュ、スリランカに働きかけることは逆効果だ、と指摘。それよりも、インドが「ビッグブラザー的な態度」をあきらめ、周辺国との関係強化を優先的な戦略に据える方が適切なアプローチだとの見方を示した。
世界が米中を核に二極化する中、インドを筆頭とする「グローバルサウス」と呼ばれる国々が第三極を構成するとの見方も出ている。インド紙が、インド政府に対して「周辺国ファースト」の姿勢を明確に打ち出す必要がある、と求めたことは、世界の三極化を予感させるものだと言えよう。
(原文)
シンガポール:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/talks-miss-chance-to-bring-peace
インド:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/neighbours-big-small/