「プーチンのロシア」に翳りか?ワグネルの衝撃
寡占的統治による弱体化を露呈した武装蜂起
- 2023/7/27
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから1年4カ月あまりが経った。事態は一向に好転せず、戦争が終わる兆しはない。6月には、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジンが武装反乱を起こし、首都モスクワに迫ったが、わずか1日で部隊を撤退させるなど、ロシア国内でも混乱が始まっている。
ロシアの味方か インドネシア国防相の「失言」
こうした中、6月3日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(通称:シャングリラ会合)では、インドネシアのプラボウォ国防相が「ウクライナ停戦案」を提案。しかし、その内容は、ウクライナ国内に非武装地域を設けて紛争地帯で住民投票を行うべきだと提言するなど、ロシア軍のウクライナ撤退を要求するものではなかったことから、「まるでロシアによる停戦案のようだ」との批判を受けた。
これを受け、インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは6月7日付の社説で、「プラボウォ国防相のウクライナ提案」と題した記事を掲載した。
冒頭で社説は、「ウクライナ戦争終結に向けてプラボウォ国防相が提示した4項目は、ロシアが無条件で軍を撤退させなければならないという、インドネシアが公式に支持する国連の立場に反しており、ウクライナおよび国際社会の怒りをかった」と批判した。社説によれば、インドネシア外務省は国防相の発言に反応しておらず、ウィドド大統領は「近いうちに国防相を召喚し、発言について真意をただす」と話しているという。
とはいえ、このプラボウォ国防相の発言は、インドネシアの国家としての信頼に傷をつけるものではない、と社説は主張する。「インドネシアが一貫して主権国家への侵略に反対してきたことを世界は知っている」というのが、その理由だ。また社説は、プラボウォ国防相がインドネシア公式の代表として発言したのではないことを強調しており、火消しに躍起となっている様子がうかがえる。
インドの社説はタリバンとの共通点を指摘
一方、インドの英字メディアのタイムズオブインディア紙は、6月26日付の社説でワグネルによる武装蜂起をとりあげた。
社説はまず、プーチン大統領が武装反乱を食い止めたことについて、「彼の20年にわたる支配における最も明らかな挑戦に対して、うまく立ち回った」と評価したうえで、「しかしこの反乱は、プーチン大統領の寡占的統治によってロシアがひどく弱体化したことを露呈させた」とも述べ、プーチン政権に深い傷を与えたという見方を示した。
さらに社説は、ワグネルの創始者であるプリゴジンとプーチン大統領の関係を、パキスタンとオサマ・ビンラディンの関係になぞらえ、国家が支援してきた非国家的な軍事組織が国家そのものの脅威になり得ると指摘した。そのうえで、「2011年、オサマ・ビンラディンがイスラマバード近郊で米軍特殊部隊により発見された時、パキスタンの体制とテロリストの結び付きが鮮明に浮かび上がった」と懐古した。
「(民間の軍事組織のような)代理者による暴力を認める国は必然的に混乱に陥り、国民の利益は損なわれる。2014年のクリミア併合から2023年のバフムート占領まで一貫してプーチンの大義に奉仕してきたワグネルは、いまやプーチンとロシアの利益をいかなる形にせよ、ひどく傷つける存在だと言わざるを得ない」と、社説は指摘する。あわせてロシアの軍事力がひどく低下していることにも触れ、「プーチン氏にとって、ウクライナとの戦争や西側諸国との舌戦に加え、ロシアの内政にまで思慮をめぐらせなければならない現状は、悪夢のようなシナリオだろう」との見方を示した。
(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2023/06/06/prabowos-ukraine-proposal.html
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/putins-rasputins/