イスラエルとガザの停戦 「トランプ和平」への評価とアメリカ社会の今
学生たちの反戦運動は本当に敗北したのか
- 2025/11/21
アメリカのトランプ大統領が9月29日、イスラエルのネタニヤフ首相をホワイトハウスに招き、パレスチナ・ガザ地区に恒久的停戦をもたらす和平プランを発表した。ガザと中東全体に和平をもたらす構想であり、停戦をはじめ、人質や遺体の返還などの20項目からなる計画だ。停戦の発効から約1カ月半が経過したが、いまだにイスラエル人の遺体はすべて返還されておらず、イスラエルによる攻撃も完全に停止していない。
こうしたなか、国連の安全保障理事会は11月17日にトランプ大統領が提示した和平計画を支持し、治安維持を担う国際部隊の設置を承認する決議案を採択した。これにより、同計画が法的に拘束力のある文書であることが事実上、認められたことになる。その一方で、イスラム組織ハマスはこの決議を拒絶した。
にもかかわらず、アメリカ国内では党派を超えておおむね肯定的に受け止められている。この停戦がいかにぜい弱であるかを理解しながらも、多くのパレスチナ人がイスラエル軍の攻撃によって毎日殺害され続け、生存する人質が戻らない状態に、まがりなりにも終止符が打たれたからだ。さらに、2年にわたるイスラエルの強硬な軍事作戦に対してアメリカ国内の世論が硬化しつつあったなか、イスラエルも、同国を物心両面で支援するアメリカも、どちらもこれ以上、パレスチナ人の犠牲を出し続けるわけにいかなかった。
本稿では、アメリカ国内でイスラエル支持者とパレスチナ支持者双方が率直にどのような意見を表明しているかや、各種世論調査の結果などを紹介しつつ、アメリカ社会における停戦の受け止められ方をまとめる。さらに、パレスチナ支持者が多い大学のキャンパスで反イスラエル的な言論が抑圧されるなか、学生たちの反戦運動が一見すると敗北したように見えながらも、今回の停戦合意に一定の影響を与えた背景を解説する。

ホワイトハウスを9月29日に訪問したイスラエルのネタニヤフ首相と会談するトランプ米大統領。(The White House)
安堵感と先行きに対する不安感が交錯
アメリカのキニピアク大学は10月22日、1327人の成人を対象に実施した世論調査で、トランプ政権によるイスラエルとハマスの停戦交渉を「非常に評価する」とする回答者が全体の34%を占め、「ある程度評価する」と答えた34%の回答と合わせ、肯定的な意見が68%に達したと発表した。
他方、アメリカがイスラエルとハマスの間でどれぐらい永続的に和平交渉を行えると確信しているかという質問には、56%が「ほとんど確信していない」、28%が「全く確信していない」と回答している。つまり、アメリカ国民の過半数が停戦の持続性に疑念を持っているのだ。
実際、ハマス戦闘員によるイスラエル兵士の殺害やイスラエル軍の大規模な報復、遺体返還に関するハマスの合意違反、イスラエルによる救援物資搬入の妨害などは今も続いており、現地に住む人々の間で停戦の実効性を疑う声が高まっていると伝えられているが、まさに多くのアメリカ国民の見解と一致している。

停戦合意を受けてガザに戻る人たち (c) NABA / X
それでも、今回、無差別な民間人の殺戮が一時的にでも停止されたことは確かであり、アメリカ国内では安堵が広がっている。
およそ7万世帯のユダヤ系人口が集中する南部フロリダ州のマイアミ圏ユダヤ人連盟のスコット・カウフマン会長は、「当地の、いや、世界中のユダヤ人コミュニティは、人質を取られていた同胞の家族を毎日気にかけていた。だから、停戦で大きな歓喜と涙が見られた」と語る。
また、マイアミでユダヤ教のラビを務めるヨッシ・ハーリグ師も、「ハマスの残虐なふるまいによって連れ去られた20人の人質が家族のもとに帰ることができたのは、大きな奇跡であり、大いなる祝いの日だ」と、喜びを隠さない。
一方、マイアミの組織「平和のためのユダヤ人の声」のメンバーであるドナ・ネベル氏は、人質の解放を喜びながらも、「パレスチナ人が彼らの土地と家で自由と尊厳をもって生活できるようになるまで、ユダヤ人と世界は沈黙しないだろう」と、述べた。ユダヤ人コミュニティの中でも、パレスチナ人の扱いに関しては意見が割れているのが実態だ。
置き去りにされるパレスチナ人の声
こうしたなか、アメリカ国内のイスラム教徒はどのように反応しているのか。
南部フロリダでムスリム連盟のスポークスマンを務めるジャラル・シェハデー氏は、「イスラエルが何万人ものパレスチナ人の虐殺を止めたことによって、非常に大きな安堵が広がっている。停戦による幸せを実感し、安堵している」と、言明した。
だが、アメリカ国内では、現地でパレスチナ人が人間らしく生きるための基本的なニーズが満たされていないことに対して不満が高まっている、とシェハデー氏は続ける。
「彼らには基礎的な栄養が必要だが、小麦粉やパンが行き届いていない」

大きな荷物を抱えてガザに戻る人々 © NABA / X
また、自身がパレスチナ人で、西部ワシントン州のシアトルで開かれるイスラム関連の評議会のメンバーであるサブリーン・オデー氏は、「私や、多くの当地のパレスチナ人は、同胞が殺戮されるのに何もできず、恐怖で見守るしかない状態が終わったことに、まずはほっとしている」と、語ったうえで、「これで終わったわけではない。停戦はイスラエルによるジェノサイドの新たな章の幕開けに過ぎないからだ」と述べ、警戒感をあらわにする。
オデー氏は、パレスチナ人への攻撃に使われる兵器を供給する国々を非難。「パレスチナ人虐殺に手を貸した者は、裁かれるべきだ。私たちのガザの家族を皆殺しにしたからだ」と述べた。
同氏は、パレスチナ人に土地が返還され、自治を許されるべきだとしたうえで、それが実現しない限り、現地の安定はあり得ないと強調する。だが、大きく報じられるユダヤ人コミュニティの声と対比し、パレスチナ人の声はアメリカでほとんど報道されていない。
かき消された学生や教員たち
一方、アメリカ国内では、パレスチナ支援とイスラエル批判の論調の中心だった大学のキャンパスでも、パレスチナを擁護する声が小さくなっている。トランプ政権が、各大学の学生に対し、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃に対する抵抗運動を「反ユダヤ主義」だと決めつけ、「反ユダヤ主義」を放置する教育機関への連邦補助金を凍結するという脅しをかけたため、多くの大学の指導部は委縮して、反戦デモを取り締まるようになったからだ。
戦争に反対する学生活動家が、授業など通常の大学運営を執拗に妨害したことも、結果的にトランプ政権の「反ユダヤ主義」を口実にした介入に正統性を与える結果となったというのは、皮肉である。

破壊されたガザの街並み © NABA / X
西部カリフォルニア州のロサンゼルスに位置する南カリフォルニア大学の学生、「アマンダ」氏は、2024年の反戦座り込みに参加した学生の一人だ。彼女は地元ロサンゼルス・タイムズ紙の取材に対して、「私たちの大学は、他校と同じように反ユダヤ主義だと連邦政府に見られることを心配し、学生の抗議行動や言論を以前より厳しく取り締まるようになった」と打ち明けた。
また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のコンピューターサイエンス博士課程に在学中のディラン・カップシュ氏は、反戦を訴える座り込み運動に参加して大学から処分を受けたことがある。そんな彼は停戦を受けて、「停戦自体は歓迎されるべきニュースだが、わが校がパレスチナの抑圧に手を貸していることに変わりはない。大学当局がイスラエルを助長する手助けをやめない限り、UCLAのみならず、アメリカ国内の大学で抗議活動は続くだろう」と話している。

ガザの人々の生活再建の道は険しい © NABA /X
一方、同じUCLAで情報科学を学ぶソフィア・トゥービアン氏は親イスラエルのユダヤ系だが、「キャンパス内には今もパレスチナ擁護を訴える貼り紙があちこちに貼られている。(大学の取り締まりが強まり彼らが表立って声をあげられなくなっても)ある意味において親パレスチナ派の抗議活動は成功だったと思う」との見方を示した。
増えつつあった反イスラエルの機運
確かに、大学キャンパスにおける言論自制の動きを見ていると、アメリカでは親パレスチナの論調が敗北したようにも思われる。
しかし、トランプ政権が停戦合意を急ぎ、イスラエルがそれを受け入れた背景には、「イスラエルがやり過ぎ」だという声がアメリカ国内で高まっていたためにほかならない。ABCニュースは、「どの世論調査でも、イスラエルの軍事行動に対して不支持を表明する層が、劇的にではないにせよ増えつつあった」と、指摘している。
少なくとも6万8000人のパレスチナ人の命が奪われ、かろうじて生き残った人々の生活も破壊されるなか、イスラエルに対するアメリカの世論が硬化する可能性は十分にあった。アメリカ世論の支持を得られなければ、イスラエルはアメリカ政府から兵器や資金の支援を継続して受けることができなくなる。今回の「トランプ和平」の実現は、そうした背景に対する理解が不可欠だ。

焦土から立ち上がるパレスチナは、国際社会の支援を必要としている © NABA / X
もちろん、イスラエル政府はハマスへの攻撃を止めるとは言っておらず、ハマスもイスラエル軍を攻撃しないとは言っていない。さらに、イスラエルがハマスを消滅させるという方針にも、何ら変わりはない以上、いずれ停戦合意が破られることは、残念ながら避けられないだろう。しかし、イスラエルが今回、アメリカ世論を味方につけ続けるためにいったん矛を収めざるを得なかったことからも分かる通り、イスラエルの行動は常にアメリカ社会の制約を受ける。その意味で、表面的には敗北したかのように見えるアメリカ国内の親パレスチナ世論は、今後もイスラエルの動向を左右し、一定程度、抑止的な役割を担い続けると言えるだろう。
(いわた・たろう)在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済や政治を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『JBpress』や『ビジネス+IT』など、多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿。好きな動物はうさぎ、趣味はドライブ、好物は寿司と辛口の清酒。『リテラ』でも『産経新聞』でも好き嫌いせずに読む。












