農業はパキスタン経済の「生命線」
地元英字紙が食料の安全保障に危機感
- 2021/1/26
開発途上国にとって、農業は重要な産業セクターである。他方、農業セクターは、自然環境や社会環境などによって最も近代化やイノベーションへの取り組みが後回しにされがちな分野でもある。1月18日のパキスタンの英字紙ドーンでは、社説でこの問題を採り上げた。
4割が農業に従事
農業はパキスタン経済の「生命線」だと社説は強調する。
「パキスタン国民の3分の2は農村地帯に住んでおり、国民の39%が農業に従事している。国家として食料の安全保障をゆるぎないものにするために、農業セクターは非常に重要だ」
しかし、他の多くの途上国と同様に、パキスタンでも農業の近代化が進まないことが足かせとなって、農業セクターの発展が妨げられている。にも関わらず、農業セクターは「とるにたらない」金額しか研究開発に注ぎ込まれていないのが現状だという。社説は、「高収量が見込める新たな種子の開発に加え、農業技術の近代化や土壌の改善、畜産業の技術開発といった研究や、農家への支援、国内外の市場開拓のための予算が微々たる額しか配分されていない」として、政策を批判する。
特に社説が強い懸念を示すのは、小規模農家への支援が手薄であることだ。
「特に、小規模農家は仲介人が言うがまま高い費用の負担を強いられている。政府の補助金はほとんどが小麦やコメ、サトウキビといった主要作物しか対象にしていないため、農家がより商品価値の高い作物を生産しようとしても、移行が進まない。ある研究によれば、作物の収量を上げようと農家が耕地面積を広げたり化学肥料を使用したりしても、農作物の安全性がおびやかされるだけで、輸出の妨げになりかねない」
小規模農家の支援を
社説によれば、パキスタンのイムラン・カーン首相はこのほど、農業をパキスタンの未来にとって「最も重要な産業セクター」だと位置付けたという。これについて社説は、「このこと自体に疑問の余地はない」として、評価する。
もっとも、首相がパンジャブ州政府に対し、農業生産を3倍にするために農民にあらゆる支援を行うよう戦略を立てることを指示したことについては、「首相の指示がいかに重要なものであっても、実際に政策転換がなければ言葉がむなしく響く」と、警告もしている。農業を本当に競争力の高い産業へと変容させることができるのか。また、本当に必要な人たちへ必要な 補助金や政策が行き届くのか――。社説は政府に対して抜本的な政策の転換を求めている。
「食料需要は、国内の人口増加とともに高まり続けている。それに応じるために、政府は農業のイノベーションに政府の補助金や人材をもっとつぎ込まなければならない。仲介者や大規模農家だけを対象にした助成金では効果は上がらないと言われている通り、小規模農家をこそ変えなければならない。小規模農家がより簡単に利用できる貸付金制度や、仲介者などの中間コストを可能な限り低減する流通システムの構築も必要だ」
新型コロナの感染拡大によって、ヒトとモノの流れは止まってしまった。人や物が自由かつ円滑に動くことを前提にしたグローバル経済の下で分業化された国際経済は、再構築の必要性に迫られ、多くの国で改めて「国内産業の育成」が重要な課題になっている。その中で農業は、多くの国々が食料安全保障という視点から重いている。しかし、パキスタンの社説が指摘する通り、この「新たな農業の時代」は、単に近代化や合理化を進めて農村を変容させるだけでなく、貧困削減や環境保全にも資するものでければならないはずだ。
(原文: https://www.dawn.com/news/1602132/agriculture-woes)