アジアを襲う豪雨と熱波 気候変動の危機に追いつかぬ対策
「異常気象の猛威に苦しむのは、いつも一般市民だ」

  • 2024/7/2

 地球温暖化による気候変動が世界各地に与える危機的な影響は、もはや無視できるレベルを超えている。北半球で次第に気温が上昇する季節を迎え、各国ではすでに「尋常ならざる暑さや降雨に備えよ」と、警戒の声が上がっている。

米国海洋大気庁が観測したラニーニャ現象の画像。赤道上の青い波紋は、海水面の温度が平年より低いことを示しており、この現象が世界各地に異常気象を引き起こすとされる。(写真は2016年10月のもの)(c) NOAA/Wikimedia Commons

ラニーニャによる豪雨が迫るフィリピン 過去の教訓を生かせるか

 フィリピンの英字紙デイリー・インクワイアラーは、5月19日付で「我々はラニーニャ現象への準備ができているか」と題した社説を掲載した。

 社説は、気象庁がラニーニャ現象による豪雨に警報を発したことに触れたうえで、読者にこう問いかける。「壊れたレコードのように繰り返すが、この国はラニーニャ現象に対し、どの程度の備えができているだろうか」。

 ラニーニャ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年よりも低くなる現象で、この現象が発生すると異常気象が起きやすいと言われている。社説によれば、今年、フィリピンでは「6月から8月にかけて」異常気象が発生する可能性が高いと予測される。

 特に懸念されるのは、台風による被害だ。フィリピンは、平均して年間20個の台風に見舞われる災害大国だが、その対策は十分とは言い難い。社説は、2009年にマニラ首都圏を襲い、社会・行政機能を麻痺させた熱帯性暴風雨「オンドイ」を例に挙げた。オンドイによる甚大な被害の後、政府は災害リスクの軽減と管理のためにさまざまな制度やインフラを整えたが、その後も洪水被害は頻発しているというのだ。

 社説は、「対策が適切に行われているかどうか、ラニーニャがくれば明らかになる」と断じたうえで、「異常気象の猛威に苦しむのはいつも一般市民なのだ」として、減災に向けたさらなる取り組みの必要性を主張している。

熱波という「怪物」と対峙するパキスタン

 一方、南アジアのパキスタンで懸念されているのは、猛烈な熱波だ。英字紙ドーンは5月18日付で「熱波への警戒」と題した社説を掲載した。

 社説によるとパキスタンでは今年、平年より気温が6~8度上昇し、パンジャブ州などでは実に45度に達すると警告されている。

 社説は、「私たちはこの熱波の影響を軽減するために、緊急に行動しければならない」と、対策の必要性を訴える。具体的には、「政府レベルでは、都市部での冷房センターの設置や、水の安定供給、そして停電を防ぐことが重要だ。地域レベルでは、高齢者や弱い立場の人々の支援が必要だ。暑さがピーク時には、学校でも時間割を調整し、臨時休校も考慮せねばならない」と、さまざまな分野での対策を列挙した。

 さらに、長期的な取り組みとして、都市の緑地化や再生可能エネルギーへの投資といった政策も必要だと主張する。「気候変動という予測不可能な怪物に対するレジリエンスを構築しなければならない」。

バングラデシュが歩む アスファルトで覆われた破滅への道

 バングラデシュの英字紙デイリースターは5月6日付で「ダッカをヒートアイランドにしている要因に対処せよ」という社説を掲載した。

 社説によれば、かつて緑豊かな河川都市であったダッカは、「無計画な都市化」により、ヒートアイランド化し、市内の気温は6度も上昇したという。「いまや、市内の75%がアスファルトやコンクリートで覆われている」と、社説はその変貌ぶりを嘆く。

 そして、こう訴える。「気候変動に強い都市とは、どのような街だろうか。必要なのは、政治家や気候変動の専門家が一丸となって、現在のビジョンを真剣に見直し、方向転換することだ。我々が今歩んでいる破滅へと続く道を転換させるために、行動を起こさねばならない」。

 

(原文)

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/its-time-turn-down-the-heat-3602556

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1834195/heat-warnings

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/173807/are-we-readyfor-la-nina

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