ロシアによるウクライナ4州「併合」の非難決議を採択
「棄権」のタイとインドの思惑は

  • 2022/10/27

 国連総会は10月12日、緊急特別会合を開き、ロシアによるウクライナ4州の「併合」を非難する決議案を賛成143カ国の圧倒的多数で採択した。現地からの報道によると、国連加盟193カ国のうち、反対はロシア、ベラルーシなど5カ国。中国やインドなど35カ国が棄権した。

 ロシアのウクライナ侵攻をめぐる国連総会決議は今回で4度目となる。3月の侵攻非難決議は141カ国、人道支援決議は140カ国、人権理事会でのロシアの理事国資格を停止する決議は93カ国の賛成でいずれも可決しており、今回の決議案への賛成国はこれまでで最も多かった。

ロシアによるウクライナの一部の併合を非難する決議の採決を表示する国連総会会場のモニター(米ニューヨークの国連本部で2022年10月12日撮影)(c)ロイター/アフロ

「沈黙の外交」の矛盾

 賛成国が多数を占める中で「棄権」を選んだ35カ国のうちの一つが、タイだ。同国の英字紙バンコク・ポストは10月14日付の社説で、この選択を批判している。

 「ロシアによるウクライナ侵攻は世界中の国々に経済的、外交的に厳しい判断を迫っているが、最近のこの国連決議においてタイが棄権を決断したことについては疑問視する声が上がっている」

 社説によると、タイ政府は今回の判断について、「非常に感情的にロシアを責める空気の中での決議であり、このような状態では外交的で実質的な交渉による解決という選択肢が失われてしまう危険性を感じた」と、説明しているという。社説は、タイの外交姿勢を「沈黙の外交」と呼び、「ほとんどすべての非難に賛同しない」と、説明する。そして、「沈黙の外交」はミャンマーへの姿勢でも貫かれている、と、社説は指摘した。

 社説は、「沈黙の外交が功を奏するのか、あるいは国連の非難決議が戦争に影響を与えるのか、まだ状況を見守らなくてはならない」としながらも、「タイ政府の『棄権』という判断は、この国が長く保持してきた国家主権の尊重、武力による脅威や領土の一方的な取得には反対するという一貫した姿勢と矛盾する。さらに言えば、2014年3月27日、ロシアによるクリミア併合を非難する国連決議にタイは賛成しているのだ」と、述べた。

 タイ政府がこのような判断を下した背景には、11月にバンコクで開かれるAPEC首脳会議がある、と社説は指摘する。タイ政府はAPEC議長国として、この会議で米国のバイデン大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席らが一つのテーブルに着くことを願っており、その思いが今回の棄権につながったというのだ。しかし社説は、「タイ政府の沈黙の外交というアプローチが、どのように結実するかが問題だ。ミャンマー問題を解決できないASEANの例を見れば多くのことが分かる」と、厳しい。

核の使用を辞さないプーチン大統領への警戒

 タイ同様に、非難決議に対して棄権を選んだインドだが、こちらはウクライナ問題について仲介者としての自信の裏付けがあるようだ。決議前の社説だが、インドの英字紙タイムズオブインディアは10月4日付の紙面でこの話題を採り上げている。

 社説は、ロシアのプーチン大統領が核の使用も辞さない姿勢であり、危機的な状況が高まっている、としている。また、プーチン大統領が「ほかに手段なし」と判断して核を使うことになれば、この地域のみならず欧州や世界に多大な影響をもたらすことになる、とした。

 「だからこそ、ウクライナは冷静に計算をしなくてはならない。ウクライナの勇敢さは同情に値するが、現実的にならなくてはならない。彼らは、プーチン大統領が、投降するよりもすべてを吹き飛ばしたいと思っているかもしれないことを認識しなくてはならない」

 そのうえで同紙は、「インドはロシア政府にもウクライナ政府とも話をし、綱渡り的な外交に取り組んでいる。これが和平交渉につながることを信じているのだ。事実、インドのモディ首相は10月初め、ゼレンスキー大統領と話、対話の道を探るよう伝えた」と、指摘する。社説は、「ロシアの侵攻を止めることは難しい」としながらも、「インドによる外交努力に加え、中国がウクライナ侵攻を良く思っていないことが一つのきっかけになるかもしれない」と、指摘する。そして、「欧州諸国の一部は、プーチン大統領に勝利することよりも、この紛争を早く終わらせたいと願っている。彼らはウクライナを説得しなくてはならない。和平達成は難しいが、不可能なことではない」と、欧州にも注文をつけた。

                               *

 積極的な対話で和平への道を探るインド、沈黙することで敵を作らないタイ。それぞれの外交現場での思惑が、国連決議での「棄権」につながった。11月には、バンコクでのAPEC、インドネシアでのG20と、国際社会を牽引する国々の首脳たちが集まる機会が重なる。それぞれの国のリーダーたちのかじ取りを注視したい。

 

(原文)

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2414053/quiet-or-loud-diplomacy-

 

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/waging-peace-india-spoke-to-ukraine-alongside-us-eu-and-china-it-must-work-to-end-the-war/

関連記事

 

ランキング

  1.  ドットワールドはこのほど新番組「月刊ドットワールドTV」を開始しました。これは、インターネット上の…
  2.  「すべてを我慢して、ただ食って、寝て、排泄して・・・それで『生きている』って言えるのか?」  パ…
  3.  昨年秋のハマスによる襲撃と、それに続くイスラエル軍のガザ地区への侵攻が始まって間もなく1年。攻撃の…
  4.  中東をめぐる米中のパワーバランス競争が複雑化している。最大の要因は、ハマスの政治的リーダーだったイ…
  5.  およそ2カ月後の11月5日に投開票が行われる米国大統領選挙は、現職のジョー・バイデン大統領に代わっ…

ピックアップ記事

  1.  今秋11月5日に投開票が行われる米大統領選挙は、現職のジョー・バイデン大統領が撤退を表明し、波乱含…
  2.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その拠点となるオランダ・アム…
  3.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その2024年の受賞作品が4…
  4. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  5.  軍事クーデター後のミャンマーで撮影されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』が、4月27日より全国…
ページ上部へ戻る