台湾から中国に外交スイッチしたソロモン諸島のいま
反中を掲げ罷免されたスイダニ前マライタ州知事が緊急来日

  • 2023/11/15

来たる総選挙で知事への復帰に意欲

――ソロモン諸島を出てから各地で見識を広め、来年4月の総選挙出馬を決意されました。今回、来日前に6カ月ぶりにソロモン諸島に帰国されたそうですが、安全面で問題はありませんでしたか?

スイダニ  出馬に向けてホニアラで登記する必要があったために帰国した。また、わが国では有権者登録をすれば18歳以上のすべての人に投票権が与えられるが、貧困のためそれを知らない若者も多いため、登録方法も教えた。逮捕されるのではという心配もあったが、空港では多くの有権者に出迎えられた。タリフィル氏も国会議員選挙に出馬する予定だ。

半年ぶりの帰国を有権者たちに歓迎されるスイダニ氏(ソロモン諸島の留学生提供)

――総選挙の勝算は?

スイダニ  間違いなく、100%、当選する自信がある。

タリフィル  私も大きなチャンスがあると思う。

――訪日の目的をお聞かせください。

スイダニ  第一に、ソロモン諸島の現状や直面する課題を日本の人々に理解してもらうこと、第二に、州知事に返り咲いたら日本からどんな開発支援を受けられるか探ること、第三に中国との付き合い方について日本から学ぶことだ。ソロモン諸島から日本に伝わる情報はソガバレ政権の主張だけであるため、それ以外の声をぜひ知ってもらいたいと考えた。

タリフィル  これまでさまざまな支援をしてきてくれた日本には、多くのことを学んできた。その日本には、ソガバレ首相の言動はソロモン諸島を代表するものではないということも伝えたかった。ソガバレ首相は先日、福島原発の処理水の放出について国連総会で激しく非難したが、あれもソロモン諸島の民意ではなく、中国の主張を代弁していただけだ。

――訪日の成果はありましたか?

スイダニ  JICAや水産庁が、現状を正しく理解してくれており、安心した。日本の前にカナダや米国、オーストラリアを訪問したが、彼らは中国に関する情報ばかり知りたがり、ソロモン諸島の現状には関心を示さなかった。日本では、互いに理解と尊敬を共有でき、実り多い滞在となった。非常に満足している。

スイダニ氏(左)とタリフィル氏(右から2人目)は築地を訪れ、漁業関係者とも交流した(筆者提供)

――日本にとってソロモン諸島は、ガダルカナルの戦いをはじめ、第二次世界大戦の記憶が残る場所でもあります。当時、日本やアメリカにより戦場にされたことはどう感じていますか?

スイダニ  当時、ソロモン諸島はイギリスの植民地に置かれていたため、否応なく戦争に巻き込まれたが、国民はなぜ戦っているのか理解していなかった。

タリフィル  イギリスとアメリカの連合軍が去った後、ソロモン諸島を支援してくれたのは日本だったため、国民の中には、今も「もしもあの時、日本が勝っていたらソロモン諸島を支援し続けてくれていただろう」と言う者もいる。

 私の叔父は中央に位置するツラギ島で日本軍の攻撃を受けて戦死したが、私自身は日本に悪感情がない。むしろ日本が島を引き揚げた後に戻ってきたイギリスがわれわれを奴隷のように扱ったことを今も恨んでいる。もっとも、米軍で黒人兵が活躍している様子には驚いたし、我々の独立も夢ではないと思うようになった。

築地の漁業関係者をはじめ、日本で精力的にネットワークを構築するスイダニ氏(左)とタリフィル氏(筆者提供)

――ソガバレ政権の親中化と第二次世界大戦の歴史には関係があるでしょうか?

スイダニ  ソガバレ首相は反白人主義者で知られる二代目首相のママロニ氏を崇拝しており、影響を強く受けている。また、言語が異なる80以上の民族の統治は独裁者にしかできないと考えているため、(独裁の手本と言える)中国に心惹かれている面もあるだろう。大戦の歴史とは関係ないと思う。

スイダニ氏らは日本のメディアの取材も積極的に受けた(筆者撮影)

――多様な民族の集合体であるソロモン諸島は現在、民族の分断や貧富の格差などの課題を抱え、社会は安定していません。今後、団結を強めるか、島ごとに自治権を強めて互いに距離を保ちつつ対立の緩和に努めるか、どちらが望ましいでしょうか?また、日本には何を期待しますか?

スイダニ  ソロモン諸島が目指すのは、ユニティ(統合)だ。そのためには、強いリーダーシップが必要だ。

タリフィル  国民は団結を望んでいる。だが、近年、首都ホニアラとその他の地域の格差が拡大しているうえ、相次ぐ中国企業の進出により民主主義が破壊され、政権の独裁化が進んでいることを危惧している。 各州が自決権を持ち、島の開発を主体的に進めることが必要だ。そのためにも日本には開発協力を期待している。ぜひ、中国の対抗軸として存在感を示してほしい。

 

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