感染拡大が続くタイでロックダウンが延長
企業CEOらは支援金と経済刺激策を要求

  • 2021/8/22

 新型コロナの感染拡大がこれまでで最悪の状況となっているタイでは、感染リスクが高い地域をロックダウンするなど、規制が一層強化されている。8月2日付のタイの英字紙バンコク・ポストは、社説でこの問題を採り上げた。

(c) MagicVova / Pexels

感染拡大、最悪の状況に

 タイでは、今年4月前半まで抑制されていた新型コロナの感染が、同月後半から徐々に増え始め、7月半ばには1日あたりの新規感染者数が1万人を突破。8月上旬には2万人に迫っている。こうした状況を受け、タイ政府は8月1日、首都バンコクを含め、感染リスクが高いとみられる国内29県に、移動規制、ショッピングモールの閉鎖、外出禁止などが含まれるロックダウン強化措置を発令した。この措置は当面、8月3日から18日までとされていたが、事態が好転しなかったために8月末まで延長されている。
 社説は、「こうした“苦い薬”を通じた対策について理解するが、経済対策への配慮が足りないことは残念だ。経済活動が生き残るためには、資金援助が必要だ。ロックダウンの強化は8月3日から適用されるが、いつ規制が解除されるかは感染状況次第だとされている」とした上で、「はたしてロックダウンが感染者数を減らすために最良の手段かどうか、十分な検討がされていない。もしロックダウンによって感染拡大に歯止めがかからなければ、政府はいつの時点でそれをあきらめ、別の手段を講じるのだろうか」と、問いかける。
 「政府の対応策は明らかに検討が不足しており、感染拡大が収まる気配はない。その一方で、国民と経済への深刻な打撃は明らかだ」
 社説によれば、タイ政府は2021年の経済成長率について、4月には2.3%としていたが、ロックダウンの影響を考慮してこのほど1.3%に下方修正したという。GDPが1%下落するということは、1800億バーツの損失に相当するという。
 「今回、ロックダウンの強化に踏み切っても感染拡大が抑制されなければ、経済指数は今年第4四半期も下落し、失業率は上がるだろう」

「サンドボックス」による外国人受け入れ策は継続

 さらに社説は、プラユット首相が40人の民間企業のCEOとオンラインミーティングを行い、新型コロナの感染拡大の抑制策や、経済への打撃回避策について意見交換したと報じている。それによれば、CEOたちは「感染を抑制するには経済活動を制限されている人々への手厚い支援が必要だ」と求めたという。また、「特に労働集約型産業のタイ人や移民労働者たちに対し、適切なタイミングでワクチン接種が実施されるべきだ」との指摘も寄せられ、経済と雇用を活性化する経済刺激策の必要性を訴えた。
 「CEOたちからは、<買い物をすればお金が戻ってくる>というプログラムを再度導入すべきだと提案があったという。優遇税を導入することで国内の消費を促進するこの施策は、昨年、2カ月間実施され、1000億バーツの効果があったと言われている」
 とはいえ、社説は「すべてのセクターがこの施策によって恩恵を被るというわけではなく、中小零細企業が苦境から脱することは難しいのではないか」との見方を示し、「今年後半に向けて、より総合的な、かつ、よく練られた経済対策が必要になる」と指摘する。
 タイは7月、観光セクターの回復を目指し、ワクチン接種などを条件にプーケット島で外国人観光客の受け入れを再開。「サンドボックス」と呼ばれるこの施策は、感染拡大下の現在も続けられている。その状況は、日本でかつてない感染拡大下で東京五輪が開催された状況とも重なるが、五輪の「バブル形式」は、想定以上にその内部の管理が難しいことが露呈しつつある。サンドボックスが、さらなる感染拡大を助長することにならないよう祈りたい。 

 

(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2158323/yet-more-lockdown)

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