インド太平洋経済枠組みの意義はどこにあるのか
あいまいな対中包囲網の効力は日本の働きかけ次第

  • 2022/6/9

先進国の傲慢への反発に入り込んだ中国

 ここで注意すべきなのは、中国が今日のように東南アジア諸国や南太平洋島嶼国の政治・経済に浸透した背景の一つに、米英豪などアングロサクソン系国家の傲慢さに対する不満があったということだ。中国は、そうした不満によって社会に生まれた隙間に華僑ネットワークを通じて浸透し、現地に根付いていったのだ。

 例えば、オーストラリアは、南太平洋に浮かぶ島嶼国を自分の「裏庭」と公然と呼んではばからない。こうした傲慢さに反発したソロモン諸島は、オーストラリアを出し抜く形で中国との間で安全保障協定に調印したし、5月末から6月にかけて中国の王毅外相が太平洋上の島嶼国8カ国を訪問した際は、あと一歩で島嶼国10カ国が中国と安全保障を含む包括的な地域協力枠組み合意に調印する事態となった。この合意は直前に内容がリークされ、国際的に中国に対する警戒が強まったために、とりあえず棚上げになったものの、決して立ち消えになったわけではない。

オーストラリアは南太平洋に浮かぶ島嶼国を「裏庭」と呼ぶ © Jeremy Bezanger /Unsplash

 このように中国は、国連や国際社会の中で、まるで米英豪など先進国の傲慢を批判する途上国の代表であるかのように振る舞っている。しかし、実際のところは、中国の途上国蔑視は欧米に輪をかけてひどい。中国の行動原理にある中華思想は、もとより中国人以外を「夷狄」と呼び、蛮族視しているのだ。だからこそ中国は、投資にしても、経済協力にしても、往々にして現地社会の伝統や文化を無視したやり方になりがちだ。チベット人やウイグル人への弾圧を見ても分かるように、抵抗する人々への対応は容赦がなく、苛烈を極めている。

 安全保障の枠組みの再構築をめぐって米中が激しい攻防を展開する中で、米国の同盟国である日本は、インド・アジア太平洋地域の安全保障に米国をうまくコミットさせるよう働きかけると同時に、中国の脅威を共有する役割を担っている。その際、米国が傲慢だったり、ルールを押し付けたりするようでは、決してうまくいかないだろう。IPEFの立ち上げにあたり、日本がこの点をうまく振舞えたというのなら、この地域における日本の存在感も馬鹿にしたものではないかもしれない。

 IPEF自体がどれほどの効力を持つことができるかはまだ分からないが、この枠組み形成に向けて日本が真面目に外交努力を重ねていけば、ゆくゆくインド、アジア太平洋諸国の合意形成を主導できるだけの実力を蓄えていくことができるのではないだろうか。その結果、いずれ米国をTPPに回帰させるチャンスが巡ってくるかもしれないし、あるいは日本が新たな国際秩序の重要な一極を担う可能性も探れる日が来るかもしれない。

 

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