援助より貿易へ 大きく舵を切ったアメリカの対アフリカ政策
順応と自立を求められるアフリカ諸国の選択は
- 2025/10/13
アメリカのトランプ大統領は9月12日、議会が対外援助費として承認していた18億ドル(約2691億円)を、重要鉱物サプライチェーンの多様化や戦略的インフラ投資など、アメリカの経済利益を最優先する分野に振り向けると通告した。その後、アメリカ連邦最高裁判所も9月26日、トランプ政権が約40億ドル(約6000億円)の対外援助予算の拠出を8月に一方的に停止したことを認める判断を下した。いまや「援助の最小化」の方針は司法も追認していると言える。
これを受け、対アフリカ政策も大きく転換した。これまでは対外援助がほとんどを占めていたアフリカとの関係は、今後、ビジネスが中核となる。アメリカでは、1950年代から対アフリカ政策を「開発援助から商業的関与へ」移行していくべきだとする声があった。しかし、トランプ政権の方針は、歴代政権があくまで多国間主義の枠組みの中でアフリカ政策を立案してきた慣行から大きく逸脱している。

今年7月に開かれたアフリカ首脳たちとのサミット会合に臨むアメリカのトランプ大統領(写真奥の左から3人目)(c) The General Snow /X
アフリカ側が望むか否かに関わらず、「援助より貿易」というアメリカの新戦略は既定路線化しつつある。どれぐらい現実的で、成功の見込みがあるのか。そして、アフリカとアメリカの最適な関係は。アメリカ国内の声を拾った。
中国は「便利なATM」から「借金の取り立て業者」へ
アメリカ通商代表部のホームページによれば、モノとサービスを合計したアメリカとアフリカ諸国の2024貿易額は、前年比8.3%増の1049億ドル(約15.7兆円)だった。参考までに、同年の日本とアメリカの貿易額は、3192億ドル(約47.7兆円)であった。

アメリカのアフリカからの輸入額の推移。2000年代と比較すると規模が縮小していることが明らかだ (c) White & Case /US Census Bureau
確かに、2024年だけを見れば、前年と比較して貿易額は伸びている。しかし、興味深いことに、アメリカがアフリカ諸国から輸入している金額は近年、2000年代と比べて規模が縮小している。
主な要因としては、①アメリカ国内の原油生産を急増させたシェール革命によって、ナイジェリアなどからの原油の輸入が大きく減少したこと、②この時期にアフリカ諸国が中国との貿易を拡大させたこと、③アメリカの対アフリカ特恵関税制度である「アフリカ成長機会法(AGOA)」が原油や繊維中心の貿易構造から多様化できなかったこと、が挙げられる。
他方、米保守系シンクタンクの民主主義防衛財団のアナリストであるダニエル・スウィフト氏の指摘によれば、中国経済の不振などから中国の対アフリカ援助額が減少し、中国がアフリカ諸国にとって「便利なATM」から「借金の取り立て業者」へと変貌し、中国に幻滅したアフリカにおいてアメリカが経済的な影響力を拡大する黄金のチャンスが生まれたという。「実利的で透明性の高い経済成長のソリューションをアフリカに提供すべき」(スウィフト氏)だという機運がアメリカで高まっているのは、そのためだ。

アフリカ諸国に対するアメリカと中国の通商影響力の比較。アメリカとの貿易額が中国との貿易額を上回るのは、わずかに小国レソトとエスワティニの2カ国のみである(Semafor)
つまり、鉱物開発やそれに関連する金融、さらに最先端テクノロジーの交易を中心とする「援助よりも貿易を」という対アフリカ政策の考え方が第二次トランプ政権下で浮上した背景には、より大きな国際情勢の変化がある。
「ビジネスマン大統領」が作り替えた関係性
トランプ大統領は、アフリカとの関係において商業を援助に優先させる政策をさっそく実行に移している。アフリカに対するアメリカの対外援助をほとんど削減したのに続き、貿易と投資に重点を置く姿勢をアピールしているのだ。

アメリカの対アフリカ輸出は、中国がアフリカでの貿易を増やした2010年代中盤に大きく落ち込んだが、2020年代に入って回復傾向にある(USImportData)
実際、トランプ大統領は7月、ガボン、ギニアビサウ、リベリア、モーリタニア、セネガルのアフリカ5カ国の首脳をワシントンに招き、「商業機会」について協議を行った。また、これに先立つ6月には、アメリカ・アフリカビジネス協議会(CCA)が、アフリカ12カ国の国家元首や、アメリカとアフリカの官民関係者ら2700人以上が参加する「アメリカ・アフリカビジネスサミット」をアンゴラで開催している。

米国からアフリカへの輸出では、鉱物・燃料・原油のほか、原子炉や原子力発電向け機器、航空機、自動車などが中心を占める。(USImportData)
この会議の成果には、アンゴラのルアカ水力発電所とコンゴ民主共和国の鉱山を結ぶ送電網整備をはじめ、アンゴラのデジタルインフラ整備、シエラレオネの液化天然ガス(LNG)ターミナル開発、ルワンダとコンゴ民主共和国にまたがる水力発電プロジェクトなど、25億ドル(約3738億円)以上の新規投資が挙げられている。
さらに、6月には、ルワンダとコンゴ民主共和国とアメリカの間で結ばれた停戦協定の一部として、アメリカがコンゴ民主共和国でコバルトなどレアアース開発の長期的権益を取得したことは特筆される。同国は、世界のコバルト生産量の約7割を占める地政学上の重要拠点であり、「援助よりも貿易を」のスローガンが、アメリカの安全保障、ひいてはアメリカ第一主義と密接に結び付いていることが分かる。
これに続き、アメリカ国際開発金融公社(DFC)は9月、アフリカを含む海外における重要鉱物開発への融資に向け、民間と共同で50億ドル(約7475億円)規模の基金を設立した。たとえば、電気自動車(EV)大手のテスラがモザンビークから輸入する黒鉛の開発プロジェクトに対して融資を行うという。

米国からの援助で届いた食糧の袋を運ぶアフリカの女性たち。トランプ政権は、最低限の食糧援助は今後も継続して行うと主張している。(Brookings Institution)
「ビジネスマン大統領」のニックネームよろしく、トランプ大統領は、アメリカとアフリカの関係を、ほんの数カ月の間に、援助中心から「ディール中心」、「安全保障中心」へと作り替えてしまったのだ。
従来型の発展モデルを併用するアフリカ諸国

近年、アフリカ諸国がアメリカの対アフリカ援助をどのように捉えているかを調査したデータは少ない。10年以上前の2013年には、アフリカ諸国平均で6割以上がアメリカの援助を肯定的に捉えていたことが分かる(Pew Research Center)
近年、アフリカ諸国がアメリカの対アフリカ援助をどのようにとらえているか調査したデータは少ない。だが、10年以上前の2013年に米世論調査大手ピュー研究所がまとめた結果によると、アフリカ諸国平均で6割以上が米国の援助を肯定的にとらえていたことが分かる。
また、6月にアンゴラで開催された前述の「アメリカ・アフリカビジネスサミット」では、多くのアフリカ側の参加者がビジネス拡大の機会を歓迎しながらも、トランプ大統領の「援助よりも貿易を」という言説に対して深い憂慮を表明していたと、アメリカの政治サイト「ザ・ヒル」が伝えている。
さらに、グローバル経済予測で知られるイギリス・英オックスフォード大学のアフリカ担当エコノミスト、ブレンドン・バースター氏は、「援助より貿易をという哲学は、アメリカがアフリカで重要鉱物を得た後にアフリカが取り残されるリスクをはらむ」と、警鐘を鳴らしている。
こうしたなか、アフリカ支援を増額する体力がない中国は、6月にアフリカ首脳を招いて開催した経済貿易博覧会で「アフリカ製品に対する関税を原則ゼロにする」と発表した。アフリカ諸国にとっては、トランプ政権の「援助よりも貿易を」という政策の変更をテコに経済的勝利を勝ち取ったと言える。
好むと好まざるとに関わらず、トランプ政権は食糧や医療分野を除いて、アフリカ援助を事実上、停止してしまった。頼みの中国も援助を増やす余力はなく、従来の多国間主義的なアフリカ支援の枠組みも縮小傾向にある。アフリカは順応と自立を求められており、米中を天秤にかける形で両国から有利なビジネスの条件を勝ち取り、国民に還元する富を増やすしか選択肢がないように思われる。それには、腐敗の摘発や透明性の確保が重要であることは、言うまでもない。
また、日本や欧州諸国との関係強化も不可欠であろう。横浜市で8月に開催された「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」では、これまでの多国間主義・自由貿易・法の支配を尊重する姿勢が強調された。多くのアフリカの指導者にとって、こうした原則に支えられた従来型の発展モデルも、健全かつ現実的な経済発展のためには、捨てることのできないものだ。
そのため、アフリカ諸国には「ビジネス型」と「援助型」という二つの発展モデルを併用していこうとする意図が見える。現地では、どちらか一方ではなく両方をうまく組み合わせて運用した方がベストの結果が得られるという見方が根強いため、「トランプ政権後」にはその方向に揺り戻しがあるかも知れない。
トランプ政権が「援助よりも貿易を」と政策を転換したことを受けてアフリカ自身がどんな選択を行うのか、アメリカや世界が注目している。












