アメリカ政治の新たな争点となるAI
データセンター、雇用、格差──11月中間選挙で広がる論争
- 2026/8/1
きたる11月のアメリカ中間選挙を前に、人工知能(AI)が新たな政治争点として急浮上しています。データセンター建設への反対運動、AIによる雇用喪失への不安、そして拡大する経済格差――。AIをめぐる議論は、もはや技術の是非にとどまらず、「誰が利益を得て、誰が負担を負うのか」という社会のあり方そのものへと広がっています。アメリカ在住のジャーナリスト・岩田太郎さんが、その背景を読み解きます。

病院の勤務シフトをAIで決定することに反対する医療従事者たちのデモ。「AIではなく現場の看護師の裁量を信頼せよ」と訴えている (c) 全米看護師労働組合連合
「自分の仕事がAIに奪われるかも知れない」、「巨大IT企業だけが利益を得る」――。人工知能(AI)の利用が進むなか、アメリカ社会ではここ数カ月、そんな不安が急速に広がっている。
労働組合はAI規制を求める声を強め、データセンター建設をめぐっては、公害や電力消費を懸念する住民の反対運動が各地で起きている。AIが生み出す利益と負担をどう分かち合うのか。民主・共和両党は11月の中間選挙を前に、そのあり方を競い始めた。
AIは、もはやテクノロジーだけの話ではない。雇用や格差、地域社会の未来を左右する「政治」のテーマになりつつあるアメリカ社会の今を追う。
データセンターが選挙を左右する
AIの急速な普及に伴い、アメリカではデータセンターの建設ラッシュが続いている。しかし、その裏では大量の電力や水を消費することによる環境負荷や電気料金の上昇への懸念が広がり、各地で住民の反対運動が起きている。AIは今や、テクノロジーだけでなく地域社会の暮らしに直結する政治課題になりつつある。
各種世論調査でも、「大量失業の元凶になるAI」「騒音や環境問題、電気代高騰をもたらすAIデータセンター」「誤情報を量産するAI」など、AIに対する否定的な見方が増えている。

各地で雨後のタケノコのように建設されるAIデータセンター。住宅地に隣接して建設されることも多く、サーバー冷却ファンの騒音や振動、冷却水をめぐる地元との水資源の争奪戦、巨大な電力消費が引き起こす電力不足がもたらす電気代の高騰などが大きな社会問題になりつつある(c) Save Ohio Parks / x
そうしたなか、普段はメディアであまり取り上げられない西部ユタ州で2026年6月に行われた共和党の予備選挙で大番狂わせが起こり、全国的な話題となった。2010年から連勝を続けてきたベテランのスチュアート・アダムズ州上院議長がデータセンター建設絡みで新人のステファニー・ホリスト氏に敗北したのだ。
アダムズ州上院議長は、ソルトレークシティー近郊で計画されていた「ストラトスAIデータセンター」の建設に関し、水の大量消費や地元の塩水湖への悪影響を懸念する地元住民の声を無視して審理を強行し、認可したことで有権者の反感を招き、データセンターの計画に反対するホリスト氏の43%を下回る35%の票しか獲得できなかったのだ。データセンターはいまだに着工できておらず、当初の計画から規模の縮小も迫られている。
こうした動きはユタ州だけではない。
ニューヨーク州ではホークル知事が大型データセンター建設を最長1年にわたり凍結する州知事令を発出した。全米屈指の激戦州であるペンシルベニア州でも、これまで建設推進の立場だったシャピロ知事が姿勢を修正し、事業者に自前で発電設備を整備するよう求め始めた。

候補者たちはきたる11月の中間選挙で、収入や富の格差と絡めてAI規制を語ることになりそうだ (c) Owen Gregorian / x
さらに、テック大手のグーグル社や、AIスタートアップ大手のオープンAI社がデータセンターの建設を競い合っているテキサス州や、ジョージア州でも、データセンター建設の是非が知事選で争点になっている。
こうした動きは州レベルにとどまらない。
ニューヨークを拠点とする金融サービスの業界誌、アメリカン・バンカーのまとめによると、全米15州でデータセンター建設の凍結や禁止が検討されており、多くの自治体ではすでに規制条例が成立している。AIによって電力需要が急速に増加し、各家庭や企業の電気料金を高騰させないように、トランプ政権が電力会社とデータセンター開発業者を結集し、自主的な誓約につなげる見込みだ。
連邦議会でも、民主・共和両党の議員が超党派でAI規制法案を提出した。AIはもはや一部の技術者だけの問題ではなく、地域社会や政治を左右する争点になりつつある。
「労働者をAIから守れ」
人事部がAIを採用選考や業績評価、勤務シフト作成に用いる企業も増えている。労働者の知らないところでAI導入が進み、権利が侵害されかねないことへの反発から、抗議活動も起きている。
また、「労働者の立場を脅かす可能性のあるAI」も政治争点化している。世論調査大手のギャラップ社が2月に全米2万3717人の従業員を対象に実施した調査によれば、AIを採用している企業で働く労働者の23%が、今後5年以内にAIに仕事を奪われるのではないかと懸念しているという。
AI導入による人員削減を公表する企業は増えている。チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社によると、2026年1〜5月だけで約8万8000人がAI導入を理由に職を失ったとされる。
しかし、その一方で、アメリカ国勢調査局が約120万事業所を対象に行った調査では、95.7%が「AIによる雇用への影響はない」と回答した。「雇用が減った」は2.0%、「増えた」は2.3%にとどまる。
現時点では、「AIが大量失業を生んでいる」という決定的な証拠はない。それでも労働者の不安は消えない。むしろ、現場で問題となっているのは、AIそのものではなく、「誰がルールを決めるのか」だからだ。AIが採用や評価、シフト作成などに使われるなか、労働者が知らないうちにAIが人事判断に関わることへの懸念も広がっている。

アメリカの国勢調査局は2025年11月から2026年2月にかけて120万の事業所を対象に調査を実施。AIが雇用にもたらした変化を尋ねたところ、95.7%が「変化なし」と回答し、2.3%が「AIは雇用を増加させた」、2.0%が「雇用を減少させた」と回答した(c) Lending Tree
こうした状況を受け、民主党系のアメリカ労働総同盟産業別組合会議(AFL-CIO)は、AI規制の策定過程に労働組合を参加させるよう求めている。
リズ・シューラー会長は、「候補者はAIに関する立場を明確にすべきだ」と訴える。
実際、AIはすでに人事や総務だけでなく、医療や運輸、重工業の現場でも、政府による十分な規制がないまま利用されている。多くの場合、AIの導入は従業員に知らされることなく実施されている。
また、従業員の賃金や福利厚生、病歴や休暇、賞罰などの個人情報をAIが分析し、第三者企業へ提供・販売することへの懸念も強まっている。
そのため、労働組合の多くは、労使間のAI導入合意や安全性テストの実施、人間による管理の徹底などを経営側に要求していく構えだ。

AI失業が2026年通年の失業率に加増する割合。基本シナリオでは失業率が0.1ポイントあまり増加し、より多いシナリオでは0.3ポイント近く、AI導入が急速に加速した場合は0.4ポイントの加増が予測される(c) ゴールドマン・サックス
本質は経済格差
グーグル社の元最高経営責任者(CEO)であるエリック・シュミット氏もニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、AIデータセンターによる地域資源の消費や電気料金の高騰、AIによる雇用不安への反発は、「AIが大多数の犠牲のうえに、少数の裕福層だけをさらに豊かにする」という認識から生まれていると指摘している。
事実、アメリカ国内の富の分布格差は、悪化の一途をたどっている。

アメリカ国内における富の分布格差は悪化の一途をたどっている。2026年1~3月期において、人口の最上位0.1%が富の14.4%、続く0.9%の層が17.2%、その下の9%が36.3%の富を所有している。これらの富裕層と比較すると、中間層に当たる人口の40%が保有する富は全体の29.6%、低所得層を含む底辺50%が所有する富は2.5%に過ぎない(c) Truth in Numbers / x
そのため、将来的なAI失業の対策として、政府が全国民に無条件で定期的に一定額の現金を支給し、最低限の生活を保障することでAIが生み出す利益を社会全体へ還元するベーシックインカムの導入を求める声も高まっている。オープンAIのサム・アルトマンCEOが2021年に提唱した考えだ。
トランプ大統領も7月2日のインタビューで、「AIには一定のルールが必要だが、過度な規制は望まない」と語り、中国とのAI開発競争を優先する姿勢を示している。
実際、共和党のトランプ大統領と、民主党左派のバーニー・サンダース上院議員がともに「連邦政府がAI銘柄を保有し、運用益を国民に還元する」という構想を打ち出した。
つまり、アメリカで問われているのはAIを規制するかどうかではない。AIによって生まれる富を社会全体でどう分け合うのか、という問題なのである。

アメリカは今年、建国250周年を迎え、7月4日の独立記念日に合わせて各地で式典が盛大に行われた。しかし、経済格差は拡大し続けており、AIによる利益と負担を社会でどう分かち合うかが、11月の中間選挙で争点化している(c) ホワイトハウス
AIが政治問題になった背景には、技術への不安だけではなく、拡大する格差への不満がある。11月の中間選挙は、AI時代の利益と負担を社会の中でどう分かち合うのかが問われる場になりそうだ。
在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済や政治を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『JBpress』や『ビジネス+IT』など、多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿。好きな動物はうさぎ、趣味はドライブ、好物は寿司と辛口の清酒。『リテラ』でも『産経新聞』でも好き嫌いせずに読む。












