泥沼化する対イラン戦争 南アジアからアメリカに注がれる二つの視線
軍事力への過信を風刺するインド、外交への回帰を求めるパキスタン

  • 2026/7/24

 アメリカとイランの戦争は停戦合意後も再び激化し、出口の見えない状況が続いている。こうしたなか、アメリカのヘグセス国防長官は7月15日、30歳以上の兵士を対象に男性ホルモン「テストステロン」の数値検査を実施すると発表した。

 この動きを、インド紙は「戦争を筋力や男性性で乗り切ろうとする発想」と皮肉り、停戦仲介に関わったパキスタン紙は、停戦崩壊への強い失望を表明した。二つの社説は異なる角度から、アメリカの対イラン政策に疑問を投げかけている。

アメリカとイスラエルの攻撃を受けて破壊されたイランの都市タブリーズの住宅(2026年3月22日撮影)© Mehr News Agency / wikimediacommons

「テストステロンで戦争には勝てない」

 インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、ヘグセス国防長官が打ち出した男性ホルモン「テストステロン」の数値検査について、7月18日付の社説で皮肉たっぷりに論じた。

 テストステロンは、筋肉や骨の形成、意欲などに関わるホルモンで、加齢とともに減少するとされる。今回の方針では、検査で数値が低かった兵士は、本人の希望に応じてホルモン補充療法を受けることができるという。ヘグセス長官は、兵士を肉体的にも精神的にも「最高の状態」に保ち、任務を遂行させるためだと説明している。

 しかし社説は、出口の見えないイランとの戦争が続くなか、国防長官が示した対策がテストステロンの検査だったことを強く皮肉る。「イランとの戦争が5カ月目に入り、ほぼ手詰まりとなったヘグセス氏が思いついたのは、『急いでテストステロンの検査を受けろ』ということだった」と評した。

 さらに、兵士のテストステロン値が低いとすれば、その原因は戦場での強いストレスや睡眠不足にある可能性が高いと指摘する。ホルモンの数値を上げたからといって、兵士の疲弊や戦争の行き詰まりが解消されるわけではなく、まして戦争に勝てるわけでもないと、社説は言う。

 社説は、今回の施策の背景には、肉体的にも精神的にも強い「男性」こそ理想的な兵士であるという、ヘグセス長官の価値観があると見る。長官はこれまでも、多様な性や人種への配慮が軍を弱体化させたという考えをたびたび示してきた。テストステロン検査も、そうした「強さ」や「男性性」を重視する軍改革の一環だと受け止められている。

 最後に社説は、古代ギリシアの兵士たちが強さを求めて生の動物の睾丸を食べていたというエピソードを紹介し、「それにもかかわらず、トロイア戦争は10年間も続いた」と指摘。「戦争は筋力や男性ホルモンの多さによって勝敗が決まるものではない」と、痛烈に風刺している。

停戦を壊した「傲慢」

 一方、停戦合意の仲介に関わったパキスタンでは、戦闘再開への落胆が広がっている。英字紙ドーンは7月19日付の社説でこの問題を取り上げ、アメリカとイランの停戦を支えるはずだった「イスラマバード覚書」が、事実上、崩壊した、と厳しく論じた。

 今回、衝突が再燃した直接的なきっかけについて、社説はホルムズ海峡の航行ルールを巡る解釈の違いを挙げる。イランは、海峡を通過する船舶はイランが承認した航路を利用すべきだと主張したが、アメリカ側との間でその意味について認識が一致していなかった。ところが、双方が食い違いを埋めるための協議を十分に行わないまま、攻撃の応酬へと進んでしまったという。

 ただし社説は、問題の根本は個別の解釈の違いにあるのではなく、数日、あるいは数週間の短期間でイランを屈服させられると考えたアメリカとイスラエルの「傲慢と横柄さ」によって引き起こされたと強く批判する。

 「彼らの見通しと想定は、妄想に過ぎなかった」と社説は断じ、「アメリカは泥沼に陥り、終わりのない戦争の瀬戸際に立っている」と、警告する。

 そのうえで、まずアメリカが敵対行為を停止し、交渉の席に戻るべきだと訴え、「停戦を立て直し、外交による解決を目指す以外に、有効な選択肢は残されていない」と結論付けている。

                       *

 インド紙は風刺という手法で、パキスタン紙は外交の視点から、それぞれアメリカの戦争遂行を批判した。表現は異なるものの、両紙は、「軍事力だけでは戦争は終わらない」という認識で共通している。

 

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-edit-page/hegseths-t-party/

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/2016629/gulf-escalation

 

 

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