コロナ第二波を封じ込め正常化に向かうベトナム社会
国内経済の活性化が課題 菅新首相の訪越は起爆剤となるか

  • 2020/10/6

国内需要が回復の兆し ”ベトナムのアルカトラズ島”を訪れる

 8月中旬、旅行に出かけた。コロナ以前は数カ月に1回の割合で国外に出ていたが、今年は2月初めに旧正月旅行から戻った後、ずっとホーチミンで過ごしていた。慣れれば慣れるものだが、当時は第二波の渦中にあった中部をのぞけば、特に国内旅行の制限はなかった上、そろそろ息も詰まってきたということで、決断した。友人と2泊で向かった先は、ベトナム南部にあるコンダオ諸島。フランス統治時代から、アメリカ駐留時代を経て、ベトナム戦争終結に至るまでの約100年間、流刑地とされていた島などがあり、複数の収容所が当時のまま残されている。ダーク・ツーリズムの側面が興味深いだけでなく、国立公園を有するほど自然も豊かであることから開発が制限されており、秘境感も楽しめるリゾート地として、近年、注目を集めている。

コンダオ行きの飛行機に搭乗。リゾート旅行のお客さんがほとんどだった(筆者撮影)

 国内線とはいえ、半年ぶりの空路移動ということで、空港に行くだけでも新鮮だった。チェックインカウンターで前述の健康申告をすませて搭乗口に向かうと、マスクに加え手袋まで装着した乗客の姿があった。コンダオ島とホーチミンを結ぶ便は2社が就航しており、普段は1日往復10便近く飛んでいるが、コロナ禍の影響で、現在は往復2便に減便している。それでも、定員70人ほどの飛行機はほぼ満席だった。もちろん、全員がマスク着用しており、こんな状況下でも予防を徹底して旅を楽しもうという人たちがいることが頼もしかった。

 わずか1時間あまりのフライトということもあり、機内サービスはペットボトルの水が配られるのみだった。

島で有数の美しいビーチも、今ならほぼ貸切状態だ(筆者撮影)

 滞在したホテルは、ちょうどわれわれがチェックインした日が正式なオープン日という偶然が重なり、大いに歓待された。「第二波さえなければ、もっとたくさんのお客様にお越しいただけていたでしょう」と苦笑いするホテルスタッフの言葉通り、滞在中はわれわれ以外に数組しか宿泊客を見かけなかった。ホテルの規模や立地を鑑みるに、かなり厳しい船出だったろう。

新鮮な海鮮を提供する食堂では、同じ飛行機に乗り合わせたグループも見かけた(筆者撮影)

 もっとも、本音を言えば、美しいビーチはもちろん、博物館や収容所に至るまで、行く先々はほとんどが貸切状態で、旅行者の立場からすれば今が「行き時」かもしれない。以前のような賑わいと活気が戻ることを願いながらも、コンダオの魅力にじっくりと向き合えたことが、この夏一番の思い出になった。

数々の受刑者が収容された建物がいまも保存されている。こちらも貸切状態だった(筆者撮影)

賑わう週末のハノイ 入国者の隔離緩和へ

 続いて、9月最後の週末には首都ハノイへ飛んだ。ベトナム航空のホーチミン~ハノイ間は独立のチェックインカウンターが設けられているほどのドル箱路線で、便数も多く、混み合っていた。くだんの健康申告は、今回は求められなかった。

ホーチミンの空港チェックインカウンターは混み合っていた(筆者撮影)

 大きな機体にもかかわらず座席はほぼ満席。パーソナルモニターでは日本の映画も楽しめるとあり、離陸を心待ちにしていたのだが、水平飛行に入るやいなや、一斉に画面が切り替わり、ベトナム航空がどれだけコロナ対策に心を砕いているのか、懇々と伝えるビデオ鑑賞タイムになった。ゆうに15分はあっただろうか。おかげで、空港や機上、そしてバックヤードでいかに消毒と衛生管理に努めているかがよく分かった。配られたウェットティッシュには、”Stay Strong”と書かれていた。飛行中はまるで啓発教育を受けている感覚に襲われたが、不思議と嫌な気は起きず、むしろこうやってベトナムの人々はコロナに共闘するマインドを強めているのかと感心する思いだった。

ベトナム航空は細部に至るまでコロナ対策を強力にアピールしている(筆者撮影)

 ハノイの空港からタクシーで中心部へ向かうと、予約したホテルまで行けないと言われ驚いた。確かに中心部のホアンキエム湖周辺は、週末になると歩行者天国になり車両が乗り入れできないのだが、第二波の襲来で中止されていたのではといぶかしく思っていたところ、タイミング悪く筆者が訪れた週末から再開されたとのことだった。仕方なく500mほど手前でタクシーを降り、歩いて向かうことにしたが、思っていた以上の賑わいと、マスクを着けている人をほとんど見かけなかったことに驚いた。屋外だからという安心感ゆえか。歩行者天国が久々に解禁された反動もあったかもしれない。住まいのあるホーチミンでは夜間に出歩くことがほぼない上、首都の方が規制が厳しい印象があったため、週末の夜とはいえ、ここまでの人出は意外だった。

土曜夜のハノイ中心部は、まるで縁日のように家族連れや若者で賑わっていた(筆者撮影)

 翌日は、夜になって突然、雨が降り始めたものの、雨合羽を羽織って練り歩く人や、ずぶ濡れになりながら歌ったり踊ったりする若者グループなどの姿にベトナムのパワーを再認識した。

 市中感染の封じ込めにほぼ成功したベトナムにとって、残る課題は入国者への対策だ。これまでは、入国後、指定施設における2週間の強制隔離が義務付けられていたが、ここ数日の政府の発表によれば、それも徐々に緩和される様相だ。今後は渡航前のPCR検査で陰性が証明されている人は指定施設での隔離期間が5日程度に短縮され、その後、自宅隔離に移行することが検討されている上、指定施設の選択の幅も広がる見込みだという。

「三密」ならぬ「5K」。ベトナムでは、「5つの khong(やってはいけないこと)」が、コロナ対策の合言葉となっている(筆者撮影)

 言うまでもなく、国内需要だけでは経済活動の抜本的な喚起には及ばない。折しも今日、菅義偉首相が初の外遊先として今月にもベトナムを訪問することを検討しているとのニュースが飛び込んできた。今後、さらに柔軟性の高い往来につながることを願ってやまない。

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