第13回ベルリン・ビエンナーレで見た弾圧下の人々の力強さ
ミャンマーのアート作品が表現する抵抗のメッセージとは

  • 2025/10/31

世界中の暴力や迫害を扱う意味

 冒頭でも述べた通り、今回のビエンナーレには、ミャンマーだけでなく、さまざまな国や地域の政治的な迫害や暴力、抵抗や連帯を扱った作品が集められた。その背景には、祖国インドの状況を憂慮するキュレーターのコラ氏の思いがある。
 「インドでは2014年以降、ヒンドゥー至上主義を掲げる極右政権下で抵抗する人々が投獄され、沈黙を強いられる状況が続いています」と嘆く彼女は、「各国で続く戦争を記憶し、文化や森林・生態系の破壊がなくならない理由を明らかにするために、虐殺や拷問の実態や、戦争から利益を得る武器産業と資本主義のあり方を問う作品の制作をアーティストに依頼しました」と話す。

キュレーターのザシャ・コラ氏(Zasha Colah)(c) Moritz Haase撮影

 他方、今回のビエンナーレには、パレスチナとイスラエル情勢を表現する作品を扱わなかったことへの批判も少なからず寄せられている。これに対してコラ氏は、「ビエンナーレでは、広く政治や文化全体を批判の対象として取り上げました」と反論する。「銃弾をかいくぐり、焼き払われる故郷を目の当たりにしたアーティストたちがパレスチナの惨状に黙っていられるはずがありません」「彼らはパレスチナ問題を避けたのではなく、その根底に向き合い、国際的な連帯や勇気、戦略、そして知性を示したのです」。

 さらに彼女は、KW現代美術インスティチュートのメインホールに展示された作品はすべてガザに捧げたものだと続けた。例えば、イタリア出身のマルゲリータ・モスカルディーニ氏による「石の階段」は、東エルサレムにある聖母マリア墳墓教会の階段を模している。東方教会、カトリック、アルメニア教会、ムスリムのすべてにとって聖地であり、歴史的にさまざまな対立の火種となってきたこの教会は、1852年にオスマン帝国により現状維持が定められ、その後、ベルリン会議で合意された。超国家的な組織や自治圏などから寄付された、いわば「無国籍」な561個の石から成るこの階段は、国に属さない中立的な存在をいかに実現するかという実験だという。

イタリア出身のアーティスト、マルゲリータ・モスカルディーニ氏の「石の階段」(c) Margherita Moscardini; Gian Marco Casini, Livorno、Eberle & Eisfeld撮影

 また、ドイツ人アーティストのアーミン・リンケ氏の作品も、聖地エルサレムとベツレヘムを「宗教中立」とするオスマン帝国の現状維持令がベルリン会議で公式に認められたことをモチーフにしている。

 このように、第13回ベルリン・ビエンナーレでは複雑かつ知的な形でさまざまな社会批判が表現されていた。正面からストレートに伝えるのではなく、さまざまな伏線を重ねて表現する。これこそが、今回のもう一つのテーマである「捉えどころのないキツネになる」ということなのかもしれない。

 

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