タイでまた首相が交代 7カ月の政権を待ち受ける「大仕事」
2年あまりで3人目の首相に就任したアヌティン氏は信頼を回復できるか
- 2025/10/26
タイで9月8日、新しい首相が誕生した。タクシン氏の次女であるペートンタン前首相が失脚し、国会は野党「タイ名誉党」を率いる実業家のアヌティン氏を選出した。2023年の総選挙以来、2年あまりで3人目の首相となったタイ。アヌティン首相も来年4月に行われる総選挙までの短命内閣であるが、その短期間に「大仕事」が待っている。
新首相に期待される成果
タイの英字紙バンコクポストは9月8日付の社説「首相を待つ大仕事」でこれを論じた。
新首相となったアヌティン氏は、来年4月に総選挙を実施しなくてはならない。それが、最大政党「人民党」が同氏を支持するにあたり示した条件の一つだからだ。だが、そうなると現政権の存続期間は、暫定政権期間を含め、最大でも7カ月にすぎない。社説は「これほど短い期間では、従来通りに政権を運営することは、ほぼ不可能だ」と指摘する。
だが、取り組むべき問題は山積している。「経済低迷から安全保障問題にいたるまで、緊急の課題には明確な決断と実行力が求められる」と社説は述べたうえで、こう主張する。「もはや、慢心や縁故主義に陥っているべきではない。有能な大臣、特に経済関連ポストの担当者が、緊急に必要とされている」。
さらに経済問題に関連して、「政治的不安定さ」自体が、世界的な貿易摩擦もあいまって、投資家のタイへの信頼を低下させている、とした。「信頼回復には、スローガンではなく、信頼できる行動が求められる」。
タイの基幹産業の一つである観光業も不振だという。社説は、「今年は3900万人の観光客を受け入れるという目標の達成は難しい」と嘆いたうえで、「新首相はタイの世界的な観光地としての魅力を回復させるために行動しなくてはならない」と期待を示した。
このほか社説は、「二次的」とみられがちな教育・高等教育・デジタル経済について、「国の基盤をつくる重要な分野」であり、優先的に実力の高い人材を送り込むべきだ、と提言している。
経済成長の影で損なわれる民主主義
数多くの重要課題を抱えるタイの新政権だが、東南アジアの他国はどう見ているのか。
インドネシアのジャカルタ・ポスト紙は9月5日付の社説で、タイの新首相やその就任をめぐる背景について論じている。
社説は、「タイは頻繁に軍事クーデターが起こるなど政治的に不安定だが、それでも経済成長は加速を続けている」と評する。
「タイ経済が驚異的な回復力を見せている主な理由は、観光や製造業といった中核的な成長分野が、政治的混乱の影響をほとんど受けていないためである。強力で永続的な官僚機構も、経済機能の継続を保障している」。インドネシア紙は、タイの構造をこのように分析する。
しかし、経済的に盤石であることが、タイ政治の不安定さや度重なる軍部による支配などの事実から目をそらさせる結果になってしまうとしたら、長期的には民主主義は育まれない。
「東南アジア諸国連合(ASEAN)の創設メンバーであるタイが政治的に不安定であることは、政治の安全保障共同体構想に明記されたASEANの『民主主義』『法の支配』『良き統治』という地域ブロックの原則を損なうものだ。民主的制度が日常的に覆されるタイの存在は、ブロック全体の信頼性を損なっている」と、社説は警鐘を鳴らしている。
(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3100493/big-job-awaits-pm
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/09/16/thai-militarys-bad-example.html













