バングラデシュ政権崩壊 現地報道が伝えた抵抗と弾圧
政府の弾圧に危機感あらわ「政府はもはや学生と対話すらできなくなる」
- 2024/8/13
バングラデシュで7月中旬、学生たちのデモ隊と治安当局が衝突する事態が発生し、報道によると200人以上が亡くなった。政府は、外出禁止令を発令し、インターネットを遮断するなど締め付けを強めていたが、デモ隊がハシナ首相の辞任を求めて8月5日、首都ダッカの首相官邸に接近すると、ハシナ氏はインドへと国外逃亡し、ノーベル平和賞の受賞者ムハマド・ユヌス氏をトップとする暫定政府が樹立された。
急転直下となった今回の事態だが、現地の報道を振り返ると、バングラデシュや隣国パキスタンの地元メディアは、7月下旬の時点でこうした状況に相当の危機感を抱いていたことが分かる。今回は、バングラデシュの情勢が現地でどのように報道されていたのか、7月に掲載された社説を振り返る。
これに先立ち、今回の事態を引き起こした背景を振り返っておきたい。抗議行動の発端となったのは、「特別採用枠」と呼ばれる制度である。これは、1971年のパキスタンからの独立戦争で戦った「自由の戦士」と呼ばれる退役軍人らの家族に、公務員の採用枠の30%を割り当てるというものだ。公務員は安定していて人気のある就職先であり、高い失業率に苦しむ若者たちの間では、この制度を「不公平だ」と批判する声は以前から根強かった。
2018年にはこの制度の廃止が決まったものの、実際には廃止は実行されなかったうえ、今年6月には高等裁判所が制度の維持を支持する判決を下した。これに対し、大学生を中心とした若者たちの怒りが爆発した。7月21日には最高裁が特別採用枠を5%に引き下げるとの決定を出したが、時すでに遅し。治安当局との衝突で多くの若者が命を落とした。

バングラデシュの学生たちは、ある一点の要求を掲げて「バングラ封鎖」を開始した。公務員採用における非論理的かつ差別的な割り当てを廃止し、憲法に沿って社会的弱者に対する最低限の割り当てを保証することを求めるものだ。 (2024年7月6日撮影)(c) Rayhan9d / Wikimedia commons
「政府の対応は間違っている」警鐘鳴らしていた現地メディア
バングラデシュの英字紙デイリースターは7月28日付で「否定や脅迫はこの危機を解決しない」と題した社説を掲載した。
社説は、今回の事件について「デモ参加者に対する残忍な取り締まりにより、すでにバングラデシュ社会は不安定な状況にある。そうしたなか、政府による法執行措置は、国民の不信と恐怖を高めるだけだ」と、政府の姿勢に落胆を示した。社説はさらに、バングラデシュ政府の、抗議活動への対応を非難している。具体的には、抗議行動の中心を担う学生たちが治療を続けていたにもかかわらず拘束したことや、治安当局の銃弾に倒れた学生に関する報告書が「広く出回っているビデオ映像とは完全に矛盾するもの」であったことなどだ。
「サイード(亡くなった学生)は、警察にとって脅威ではなかったはずだ。しかし警察は、何度も彼に発砲し、死に至らしめたのである」と、社説は断言する。
「政府がこのようなやり方で国を正常化できると考えるのは、誤りだ。政府は、特別採用枠をめぐって空前の死者数を積み上げており、国民の懸念を払しょくすることはできない。問題解決に真摯に取り組もうとしない政府の態度は、学生たちの信頼を得られないばかりか、対話すらできなくなるだろう。もはや、恐怖や脅迫、事実の歪曲で事態をコントロールしようとする時ではない」
隣国パキスタンの見方「起こるべくして起きた最悪の事態」
同じ南アジアのパキスタンでは、英字紙ドーンが7月20日付で「バングラデシュの混沌」と題した社説を掲載した。
バングラデシュの抗議行動の背景について、社説は「公務員はバングラデシュの人々にとって人気のある就職先だ。それだけに、経済が停滞し、何百万人もが失業しているなかでの高裁の判決は多くの人を激怒させた」と説明した。また、大規模な抗議に至る過程には、経済の減速、強権政治による政治的権利のはく奪など、他の要因もあったと指摘した。
「このような大規模な抗議行動が起きるのは時間の問題だった」と、社説は主張する。経済成長の恩恵を受けられない人々の存在や、政治的に偏った状況を考えれば、「起こるべくして起きた」ということだ。
社説は「バングラデシュで起きている不幸な出来事は、他の南アジア諸国への警告だ。政治的犠牲と経済停滞、強権政治が相まって、最悪の事態を招くのだ」として、強権主義により広がる格差が隣国を揺るがせている事態に警鐘を鳴らした。
深刻化する経済への打撃
バングラデシュでは、今回の事件による経済活動への影響も指摘されている。デイリースターは7月23日付の社説で、経済状況の悪化に強い懸念を示した。
社説によれば、バングラデシュ最大の輸出産業である縫製業が生産停止に追い込まれ、この時点ですでに4800万ドルの損失を出したと指摘した。さらに、税関が機能せず、輸出用の貨物6000個が港湾で立ち往生していると述べ、危機感を隠さない。
市場では、生鮮食料品や必需品が高騰し、さらに国民を苦しめているという。社説は、「夜間外出禁止令と暴力が経済を疲弊させる」と論じ、一日も早く正常化することを求めていた。
いまだ情勢の安定しないバングラデシュだが、今後ムハマド・ユヌス氏率いる暫定政権が国民生活をどう立て直していくのか、注目される。
(原文)
バングラデシュ:
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1846814/bangladesh-chaos