混迷深まる中東情勢 アジアの新興国の反応
イランによる報復攻撃がカウントダウン 国際社会は状況悪化を止められるか
- 2024/8/15
イランの首都テヘランで7月31日、イスラム組織ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ政治局長が殺害された。イランはイスラエルに対する報復攻撃に踏み切る考えを示しており、中東の混迷は複雑さを深めている。終わらない戦争に、グローバルサウスの国々は、国際社会が緊急に介入すべきだと訴える。
ハニヤ氏殺害に憤るパキスタン紙
パキスタンの英字紙ドーンは、8月1日付の社説でハニヤ氏の殺害を採り上げた。社説は「衝撃的な事件だ。中東全体が未知の世界へと突入した」と書き出す。
ハニヤ氏殺害への関与について、イスラエルは沈黙を貫いている。だが、社説はこう断じる。「誰の責任かは疑う余地がない。ハニヤ氏殺害のわずか数時間前、イスラエルはベイルートにあるヒズボラの拠点を空爆したのだ」。
さらに、報復を宣言したイランについて、「最高指導者ハネメイ師は、ハニヤ氏の殺害について、『彼の血に報いるのは我々の義務だ』と主張している」と、イランの立場を解説した。
そのうえで、社説はイスラエルを強く非難する。「この10カ月近く、イスラエルのネタニヤフ首相は、ガザのハマスを鎮圧できないまま、シリア、レバノン、イランの主権をも侵害し、中東全域を不安定化させている」。
インドネシア紙は和平の仲介者としての役割を主張
インドネシアの英字紙ジャカルタポストは、7月30日付の社説でパレスチナ問題を取り上げた。こちらは、7月19日に国際司法裁判所(ICJ)が出した「イスラエルによるパレスチナ占領政策は国際法に違反している」という勧告的意見についての論考だ。
社説はまず、パレスチナ問題におけるインドネシア政府の立場について、「今や中堅国となったインドネシアにとって、パレスチナの独立国家樹立と和平に貢献する貴重な機会」であるとしている。
社説によると、ICJの勧告的意見は、イスラエルに対し、違法入植地の解体、パレスチナ人への土地の返還、補償金の支払いなどを求めているという。そして「ICJの意見に法的拘束力はないが、インドネシアを含む国連加盟国は、この意見が守られるよう行動する道徳的に重要な義務がある」と社説は指摘する。
インドネシアは、イスラエルとの間に国交がない。社説は、このことが和平調停において積極的な役割を果たすためのハンディキャップとなっていると述べる。だが、「国交の有無にかかわらず、持続的な解決策を見出すために、できる限りの努力をしなければならない。少しでも状況が改善するよう、あらゆる機会を利用するべきだ」と述べ、インドネシアが仲介者の役割を担うべきだとしている。
足並み揃わぬ国際社会に焦れるバングラデシュ紙
バングラデシュの英字紙デイリースターは、7月25日付の社説で「世界の指導者は介入の緊急性を認識するべきだ」と主張した。
社説はまず、「イスラエル軍が、ガザで罪なきパレスチナ人に戦争を仕掛けてから10カ月。同地域の住民は飢餓に苦しみ、計り知れないほどの暴力を受けている」と指摘。さらに、世界保健機構(WHO)などのデータを引用しながら、「死者がすでに4万人近くに上っており、医療を受けるためにガザからの緊急避難を要する人も1万4000人に増加している可能性がある」と述べる。
そのうえで、「国際社会がイスラエルに十分な圧力をかけない限り、この現状は解決できない」と訴えるが、「国際社会の足並みはまったくそろわず、ICJの勧告的意見が出されたにもかかわらず、イスラエルからの反応もほとんどない」と、現状を憂える。
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新興国のメディアの社説が、ガザ問題について特に期待を寄せるのは、アメリカの動きだ。しかし、11月の米大統領選を前に、アメリカはむしろイスラエルを刺激することを避けるようになっている、と各紙は指摘する。事態は悪化するばかりだ。
(原文)
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1849359/haniyehs-murder
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/07/30/icj-ruling-challenges-ri.html
バングラデシュ: