海外就労者に依存するアジア諸国の経済 人材は「商品」に
海外での労働を「自ら選ぶもの」に 移民大国フィリピンの夢
- 2025/1/25
フィリピンでは毎年12月のクリスマスシーズンになると、国際空港にたくさんの荷物を抱えた海外就労者たちが帰郷する。入国審査の列には、「フィリピン人海外就労者」のための特別枠があり、彼らはフィリピン経済を支える英雄として歓迎される。しかし、国家経済の海外就労者への過度な依存は、就労者本人のみならず、国内経済や社会に大きな影響を及ぼしている。
労働者の命と尊厳を守れ
フィリピンデイリーインクワイアラー紙は2024年12月17日、「フィリピン人労働者の『海外輸出』を終わらせよ」と題した社説を掲載した。
「マルコス大統領には夢がある。いつの日か、海外での就労を『必要に迫られて』ではなく、『自ら選ぶもの』にする、という夢だ」。社説はこんな書き出しで始まる。
だが、「大統領の夢を真剣に受け止めることはできない」と、社説は言う。なぜなら、大統領の経済政策の柱が、「フィリピン人労働者の輸出、つまり搾取であり、彼らの仕送りが経済を支えている」からだ。フィリピンでは、1974年に現在のマルコス大統領の父親、故マルコス元大統領の時代に労働法が制定されて以来、海外移民労働がフィリピン経済の原動力として奨励されてきたという。
社説によると現在、200カ国以上で推定1,000万人のフィリピン人が働いている。その多くは、非正規雇用、または一時的な滞在であるという。新型コロナのパンデミックで一時的に送り出し数は減ったものの、コロナ禍が明けた2022年には、2020年の2倍以上にあたる120万人以上が海外に送り出された。その結果、2022年のフィリピン人海外就労者からの送金額は325億ドルと過去最高を記録し、国内総生産の9%を占める状態が続いているという。
社説は、海外就労への依存には「高い代償が伴う」と主張する。例えば紛争地に送り出されたフィリピン人は、銃撃戦に巻き込まれたり、人身売買の犠牲になったりする危険性がある。また、死刑制度のある国では、死刑執行の可能性にも直面する。事実、2024年10月5日には、サウジアラビアで死刑判決を受けていたフィリピン人労働者の刑が執行された。フィリピン政府は助命を嘆願していたが、受け入れられなかったという。
また社説は、「フィリピンでは、何十年にもわたり海外就労者への依存が続いた結果、国内で働く人材の育成ではなく、国外に送り出すための教育という悪循環が生まれた。看護師、医師、エンジニアなどは、社会を支える大事な柱ではなく『商品』とみなされるようになった」と指摘した。
社説は「大統領は自ら描いた夢を、行動に移さなければならない。労働者の輸出政策を廃止することは、経済的な問題にとどまらず、フィリピン人労働者の尊厳を守る問題でもある」と、強く主張している。
バングラデシュ暫定政府、移民を救済できるか
同様に、多くの労働者を海外に送り出しているバングラデシュの英字紙デイリースターは、2024年12月18日付の社説で、「移民福祉の新たな基準を」と題した記事を掲載した。
バングラデシュでは現在、2024年8月に発足した暫定政府によってさまざまな改革が進められている。しかし、移民労働者については「改革にはほど遠い状態だ」という。2024年1月から11月までにバングラデシュに移民労働者から送金された金額は、過去最高の242億4, 000万ドルに上っている。だが、社説は「これは移民の勝利ではなく、国家が移民を外貨獲得のための経済的手段と考えていることを示している」と、厳しい見方をしている。
社説はまた、移民労働者の声も紹介している。「バングラデシュ当局は、私たちの暮らしや健康問題、安全についてなんら気に懸けていない。彼らが関心を持っているのは、私たちがいくら送金するかということだけだ」「大使館でさえ、私たちを尊重していない。まるで奴隷のように扱っている」。
社説によれば、移民労働者たちは、詐欺的な採用方法、法外な移住費用、虐待、契約違反、劣悪な生活環境など多くの課題に直面しているが、救済や支援はほとんどないのが実態だという。社説は、「今こそ、移民が国のために何ができるのか、ではなく、国が移民のために何ができるか、を考えるべきだ」と、暫定政府の果敢な取り組みを求めている。
(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/179248/end-the-export-of-filipinos
バングラデシュ:
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/time-set-new-benchmark-migrant-welfare-3779271