中東情勢の悪化で不安定化する東南アジアのエネルギー供給
酷暑の時期を前に国民生活への深刻な影響を懸念

  • 2026/4/27

 アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃に伴う中東情勢の悪化で、日本を含むアジア各国でも燃料不足が深刻化しています。東南アジアでも、特に原油輸入の多くを中東に依存しているフィリピンとタイでは、その影響が国民生活にまで及んでいます。

燃料税の撤廃などを求めてマニラでストライキを行う乗り合いバスやタクシーの運転手たち(2026年3月26日撮影)© Kej Andrés (Ryomaandres) / wikimediacommons

 

「パーフェクトストーム」が進むフィリピン

 フィリピンの英字紙フィリピンデイリーインクワイアラーは、3月18日付の社説で「東南アジア諸国連合(ASEAN)の石油安全保障協定を発動せよ」と訴えた。

 フィリピンは、東南アジアの中で最も深刻な打撃を受けている。同国は、原油輸入の9割以上を中東に依存する一方、国内備蓄は45日分にとどまる。3月24日には、マルコス大統領が「国家エネルギー非常事態」を宣言し、26日にはロシア産の原油が到着したとの報道もある。

 ただ、国内の燃料価格はすでに高騰しており、マニラでは3月26日、乗り合いバスやタクシーの運転手たちがストライキを決行し、燃料税の撤廃などを求めた。政府は運転手たちに約1万円の現金を給付したが、燃料高騰や物価高騰による生活苦を救うにはとうてい至っていない。

 フィリピンの現状について、社説は「“パーフェクトストーム”に直面している」と表現した。これは、石油の高騰が、交通費や電力料金、生活必需品など、暮らしのあらゆる側面に影響を及ぼしていることと、通貨ペソが対米ドルで史上最安値を記録するなど、経済と社会の多方面で「嵐」に直面していることを意味している。

 この状況を脱するために、社説は、ASEANの「石油安全保障協定」をただちに発動せよ、と主張する。これは、ASEANの加盟国内に石油を産出する国と輸入している国があることから、互いに助け合い融通し合うことを約束したもので、社説は「今こそこの協定を発動し、地域全体でエネルギーの安定供給に取り組むべき」だと主張する。

 しかし、現実にはASEAN域内で補完するだけでは間に合わない状況も起きており、フィリピンやベトナムは、備蓄量が比較的多い日本に支援を求めているという。

タイで広がる燃料パニック

 タイでも、石油不足と価格高騰が人々の生活を苦しめている。地元英字紙のバンコクポストによると、タイでは一部のガソリンスタンドが閉鎖しており、営業しているスタンドには長い行列ができているという。同紙は、3月18日付の社説「広がる燃料パニック」でこの問題をとりあげた。

 社説によると、タイには約100日分の石油備蓄があると言われている。タイ政府はたびたび「供給量は十分あるため、心配する必要はない」と国民に呼びかけているものの、人々の不信感はぬぐえないという。

 不信感の背景の一つには、石油の備蓄量を偽って自身の利益を確保したり、燃料不足が深刻なミャンマーへ密輸したりする業者が後を絶たないことが挙げられる。

 社説は、「危機的な状況下で人々がパニックに陥るのは、当然だ」としたうえで、「政府は、生活必需品や燃料の買い占めを防ぐために、信頼できる実行可能な計画を遂行し、国民を安心させなければならない」と指摘。そのうえで、「アヌティン政権がその信頼を築けていないのは残念なことだ」と、現政権を批判している。

              *

 東南アジア各国は、今、一年で最も暑い時期を迎えており、燃料の高騰が人々の生命に直接、影響を及ぼす事態も十分に考えられる。中東情勢の改善に各国が外交努力に全力を傾けると同時に、日本を含めた地域全体でのエネルギー安全保障について、長期的な取り組みを始める必要があるのではないだろうか。

 

(原文)

フィリピン:

https://opinion.inquirer.net/190480/turning-to-asean-for-help

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3223644/fuel-panic-spreads

 

 

関連記事

 

ランキング

  1.  世界で最も権威のある報道写真コンテストの一つ、「世界報道写真(World Press Phot…
  2.  アメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領があいついで中国・北京を訪問し、習近平国家主席…
  3.  アメリカとイランの戦争は、不安定な停戦に入ってなお予断を許さない状況にあります。アメリカ在住の…
  4.  2024年7月から8月にかけて若者らの抗議活動が激化し、当時のシェイク・ハシナ首相率いるアワミ…
  5.  1990年代初頭、内戦の傷跡が色濃く残るカンボジアに足を踏み入れた一人の日本人がいました。学校づく…

ピックアップ記事

  1.  30年前、内戦直後のカンボジアで、戦火をくぐり抜けて残った数本の在来種の胡椒の木を大切に育てる老農…
  2.  少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々の証言を基に紡がれた映画『LOST LAND/ロストランド』…
  3.  ドットワールドと8bitNewsのコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメデ…
  4.  世界の映画祭を巡りながら、観る者の心を静かに、そして確実に揺さぶっている映画が4月24日より一般公…
  5.  タイで昨年、これまで認められていなかったミャンマー人難民の就労を認める制度が始まりました。北西…
ページ上部へ戻る