中国がアフリカと「一帯一路」共同建設に合意
現実味を帯びる「チャイナフリカ」の時代

  • 2020/12/21

共産党の支配を受ける民営企業

 とはいえ、アフリカ諸国がコロナワクチンを入手するためには、クリアすべき課題も多い。まず、ワクチンを適切な温度で保管しなければならない。また、温度管理したまま輸送するコールドチェーンの設備も必要だ。中国は、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団やWHO、さらにCOVAXに参加している各国の衛生当局に協力を要請しているが、こうしたワクチンの分配が中国主導で進められるのか、国際機関が主導するのか、まだはっきりしていない。中国に対して最も牽制力のある米国が、COVAXに参加していないためだ。

 この点について、ブローティガム教授は、「中国はワクチンがグローバルな公共産品であることを認めているが、グローバルな公共産品には融資が必要だ」とした上で、「中国はこれまでに20億ドル拠出したが、まったく足りない」と指摘。さらに、「このような資金援助には、交換条件を出すべきではないにも関わらず、中国はまさにワクチンを開発することで、その分配にあたり指導的な立場をとろうとしている」と非難する。

 問題は、ワクチンにとどまらない。中国はこれまで20年以上にわたってアンゴラやザンビア、エチオピア、ケニアなど、アフリカ諸国のインフラ建設事業に債権を投じてきたが、回収できていない。今後、一帯一路とアジェンダ2063をリンクさせて推進していくということは、当然ながらさらなる資金が必要となり、中国はこれらの債務国に再融資していくことになる。とはいえ、中国財政もひっ迫しているのは、周知の通りだ。2019年度の一帯一路名目の対外融資額は前年度を下回った。今後も縮小傾向は続くとみられている。

中国政府は公共債務を官民連携融資に転換しようとしている(c) JhihYu Wong / Unsplash

 資金不足を解決するために、中国当局は民営企業に協力の要請を始めた。公共債務融資を少しずつ新たな官民協力融資に転換していこう、との狙いだ。たとえば、民営企業に高速道路建設の投資をさせる代わり、通行料金の徴収権を与えることで、不良債権のリスクが低減し、利益を上げる可能性が出て来る。同様に、インターネットや通信インフラ整備事業に出資させる代わり、その後のネット運営やEコマースのプラットフォームなどで利益を上げさせることも可能になる。

 2020年1月から10月に中国の民営企業がアフリカで新たに受注した建設事業費は、前年に比べて34%増加した。世界的に見ても破格の増え幅である。また、アフリカのインターネット経済も急速に発展しており、2020年はGDP比で5%貢献したという。中国メディアは「交通インフラや通信インフラの運営が中国企業に任されることで、中国とアフリカの経済の紐帯が強まり、中国企業にビジネスチャンスが開かれる」と、期待を込めて報じている。

 しかし、国際開発コンサルティング企業であるデベロップメント・リマジンド社のハンナ・ライダーCEOは、ドイチェ・ベレの取材に答え、「これは新たなリスクをはらむ」と指摘している。

 同氏は、世界銀行と国際通貨基金が1980年代にアフリカで官民協力の枠組みを導入したことによって、公共産品の公平分配機能が弱まり、弱肉強食の競争が加速したばかりでなく、最終的に貧困が悪化したと振り返る。さらに氏は、「そもそも中国は官民共同経営の経験が一律ではない」とも指摘する。実際、中国の民営企業は共産党利益をまず優先しなければならないという点で、普通の民営企業ではない。そのため、兵力輸送やロジスティックなど、軍事面の要である交通事業も、ビッグデータ収集の手段であると同時に世論誘導・情報戦の要である通信事業も、アフリカ支配に欠かせないインフラの運営権を握るのは、中国の民営企業ではなく、中国当局となる。

国際商事法廷にアフリカ人専門家を招聘

 中国がいかにアフリカの植民地化という野望を本気で考えているかは、日本の最高裁判所にあたる最高人民法院に一帯一路をめぐる紛争審理機関として設置した国際商事法廷に法律顧問としてアフリカから専門委員を4人招聘したことからも明らかだ。ウガンダ元最高裁判官のバート・カトゥリーベ氏、ナイジェリア元検察総長兼司法相のクリストファー・アデバヨオジョ氏、アルジェリア裁判官で元国連ブルンジ問題調査委員会主席のファッサ・オウゲルグーズ氏、そして、エジプト・カイロ国際商事仲裁区域センター主任のイスマイル・セリム氏という顔ぶれだ。専門委員は計24人で、任期は4年。彼ら以外は、中国人が11人、香港とマカオから各1人、その他外国人が7人という構成であることからも、アフリカ重視のシグナルは明白だ。

 米国も、英国も、欧州諸国も、それぞれ自国のコロナ禍と内政問題で手いっぱいの中、着実にアフリカに布石を打ち続けている中国。その戦略性をもっと真剣に受け止め、危機感を共有しなければ、来たるポストコロナの時代に大中華とパン・アフリカ主義が統合されたチャナフリカを見ることになるという話も冗談ではすまなくなるだろう。

 

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