報道から読み解くアメリカとイランの緊張関係
トランプ大統領の「不名誉な」発言と核開発問題

  • 2025/5/27

 アメリカのトランプ大統領が5月13日から4日間の日程で中東を歴訪中にイランを強く非難したことを受け、イラン国内に激しい反発が広がっている。宗教指導者や軍幹部は、トランプ大統領の発言を「米国にとって恥ずべき低レベルの発言」だと断じた。両国の対立は核問題をめぐる緊張にも波及している。この問題をカタールとアメリカはどう報じたのか、紹介する。

ドナルド・トランプ米大統領とスティーブ・ウィトコフ米中東特使が表紙を飾るイランの新聞(2025年5月11日、イラン・テヘランにて)© ロイター/アフロ

「ペルシア湾をアラビア湾へ」にイランが激怒

 カタールのAl-Jazeeraは5月17日付の記事で、イランの政治・軍事指導者たちが中東を歴訪中に暴言を吐いたトランプ米大統領に強く反発していると報じた。
 記事によれば、中東を歴訪していたトランプ大統領がサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦との間で巨額の取引に調印した際、イランに隣接するアラブの指導者たちがインフラを発展させていることを賞賛したうえで、イランについて「1979年の革命で王政に代わり神権体制が確立されて以来、ランドマークが瓦礫のように崩れている」と発言した。さらに、「汚職と不始末にまみれたイランの指導者たちは、緑の農地を乾燥した砂漠に変えることに成功した」とも発言したという。
 この発言を受け、イスラム革命防衛隊(IR述べ)のホセイン・サラミ司令官は5月16日、トランプ大統領に向けて「イランには美しい名所がある」と述べ、「我々は、人格、アイデンティティ、文化、そしてイスラム教の精神に誇りを抱いている」と反論した。
 しかし、イランの人々を最も怒らせたのは、「ペルシャ湾」を「アラビア湾」に改称するかもしれないという発言だった。トランプ大統領のこの発言が伝えられると、一般市民から当局、地元メディア、さらには国外にいる親トランプ派のイラン人まで、激しい非難が沸き起こったという。
 イランの最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ師は5月17日、テヘランで行われた式典に参加した政治・軍事の指導者たちを前にしたスピーチの中で「トランプ大統領の発言はあまりに低レベルな発言であり、口にした者の恥であると同時に、アメリカ国家の恥である」「返答する価値すらない」と発言。これを受けて、集会に参加していた聴衆からは「アメリカに死を」といった声が次々に上がったという。さらにハメネイ師は、「トランプ大統領が和平のために権力を行使したいと発言したのは嘘八百だ。ワシントンは、パレスチナをはじめ、各国で人々が虐殺されることを支持している」とも述べたと記事は伝えている。

核開発をめぐる対立と外交の駆け引き

 Al-Jazeeraがアメリカに対して反発するイランの姿勢を報じた一方、アメリカのAP通信も5月18日付けの記事でイランの核問題を取り上げた。記事によれば、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領が「われわれは米国との協議を続ける用意があるが、核を開発する権利は手放すつもりがない」と発言したという。

 記事によれば、イランの国営テレビはこの日、マスード大統領が海軍関係者に向けて行ったスピーチの中でアメリカと核開発について協議を続けていることを明らかにしたうえで、「我々は戦争を望んでいるわけではないが、いかなる脅威も恐れていない」「我々は(核の領域から)撤退するつもりがないし、軍事、科学、核などの分野における名誉ある業績を簡単に手放すこともない」と発言する様子を放映したという。

 事実、核開発に関する両国間の専門家協議は、ウラン濃縮の許可を求めるイランと、権利の放棄を主張するアメリカの間で難航している。アメリカは「合意が成立しなければイランの核開発施設を空爆する」と繰り返し脅しているものの、イラン政府関係者は「われわれはすでに兵器に近い水準の濃縮ウランを保有しており、いつでも核兵器を開発できる」と反論している。

 今回、中東諸国を歴訪したトランプ大統領は、出席したすべての行事の席で「イランが核兵器を手にすることは許されない」と、繰り返し主張した。アメリカの情報機関によれば、イランは核兵器を開発する直前の状態にあるが、積極的に進めている様子は見られないという。AP通信によれば、イランの国営テレビは原子力組織のトップであるモハマド・エスラミ氏が「われわれが核開発を進めているのは、平和的な目的だ」「国連の核監視団による継続的な監視を受けている」と発言する様子を放映したという。さらにエスラミ氏は、「われわれほど国連の監視を受けている国はほかにない」「国連によるイランの核施設の査察は、2024年の1年間だけで(この年の査察回数の約4分の1に相当する)450回以上に上る」と発言している。
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 今回の二つの報道は、同じ出来事を異なる角度からとらえるメディアの視点の違いを浮き彫りにしている。Al-Jazeeraは、中東歴訪中のトランプ大統領の挑発的な発言と、それに対するイラン国内の強い反発に焦点を当て、アメリカの姿勢自体を問題視した。それに対し、AP通信は米国と対立しながらも交渉を続けるイラン政府の姿勢に注目し、今後の核開発の行方と外交的な駆け引きを軸に報じた。
 こうしたまなざしの違いは、アメリカとイランの間の緊張関係が、単なる言葉の応酬にとどまらず、地域の安全保障や国際的な核不拡散体制にも甚大な影響を及ぼしかねないことを示唆していると言えるだろう。

(出典)
カタール:Al-Jazeera

https://www.aljazeera.com/news/2025/5/17/irans-leaders-slam-trump-for-disgraceful-remarks-during-middle-east-tour

アメリカ:AP通信

https://apnews.com/article/iran-us-nuclear-talks-trump-threats-8cb0f5c4f36e305b6448edb5fcc8e6a9

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