米中貿易戦争で失われた「アメリカ的」な価値とは
トランプ政権の強引な姿勢に警戒心を強めるアジア諸国
- 2025/5/29
アメリカのトランプ大統領が世界各国の製品に課した相互関税を巡っては、執行された翌日に「90日間の一時停止」が発表されるなど、混乱が続いている。5月12日には中国との間で90日間、関税を引き下げることで合意に至ったものの、恒久的なものではなく、最終的な関税の水準や世界経済への影響については、依然として不透明な状況だ。
このアメリカと中国の「貿易戦争」については、アジア各国も注目している。各紙の社説からは、自国の経済への影響を懸念するだけでなく、トランプ政権の強引な政策に対する警戒心が滲む。
アメリカが中国に同化
インドの英字紙タイムズ・オブ・インディアは、4月17日付で「アメリカ的ではないアメリカ」と題した社説を掲載した。
社説はまず、「トランプ大統領は軽率かつ頻繁にデュープロセス(適正な手続き)を無視しており、アメリカの最も称賛すべき特質の一つを台無しにしている」と指摘した。また、トランプ政権が連発するさまざまな措置についても「無責任な億万長者が率いる準政府機関が大学に圧力をかけて学部を閉鎖したり、大統領が関税戦争を宣言したり、中国製品への関税を245%まで引き上げたりすることで、アメリカ人の生活にどのような影響を与えるかまったく考えていない」と、厳しく非難した。
さらに社説は、「これらの措置はデュープロセスを無視しており、明らかにアメリカ的ではない」と断じたうえで、「トランプ大統領はアメリカモデルに銃口を向けている」と警告する。
アメリカの憲法は、「デュープロセス」について二度にわたり言及している。連邦政府の権限を制限する項目と、州政府および地方自治体を監視する項目だ。どちらの項目も「政府が正当な法的手続きを踏むことなく個人の生命、自由、財産を剥奪できないようにする」ことが目的だという。社説は、アメリカ以外の民主主義国家にも同様の考え方は存在する、としたうえで、「アメリカはデュープロセスを何よりも優先する国であるからこそ、特別な存在であり続けてきた——少なくともこれまでは」と述べ、現状に警鐘を鳴らす。
さらに社説は、国際社会におけるアメリカと中国の二極化について「すでに中国を選んだ国々もあるが、中国の独裁的なイデオロギーに違和感を抱いている国の方が多い」と指摘。そんな中国と対極的であるはずのアメリカが、もしも中国と同じように、「巨大なGDPを誇るが、自由、人権、そしてデュープロセスをしばしば無視する」というスタイルを採り入れるなら、両国の違いはあいまいになるだろう、と指摘した。
「中国に勝つために、アメリカは一層『アメリカ的』になる必要がある。つまり、移民を受け入れ、表現の自由を認め、法を尊重しなければならない。だが、トランプ大統領はこの点を理解していないため、中国があたかも自由貿易を重んじる、理性的で穏健な覇権国かのように見せてしまっている。それは、アメリカを再び偉大にするための道ではない」と社説は強い危機感を示している。
物価急上昇を招く関税は「無益」
スリランカの英字紙デイリースターもまた、トランプ大統領の政策について「アメリカ的ではない」と評する。同紙は、4月9日付の社説で「貿易戦争は無益だ」と題し、トランプ大統領の関税政策について否定的な見方を示している。
社説はまず、アメリカのウィリアム・マッキンリー元大統領(在位1897〜1901年)が関税を強化した時代を振り返る。マッキンリー氏は下院議員だった1890年、輸入品に対する関税率を平均50%に引き上げる関税法を起草した。これは、国内産業と労働者を国際競争から保護することが目的だったが、同法が施行されると米国内では日用品の価格が急上昇し、アメリカ国民から強い反対の声が上がったという。ちなみに、マッキンリー大統領は1901年に暗殺されたが、その前日も関税について演説していたという。
そのうえで社説は、「関税を引き上げても、その分の追加コストは、最終的に販売価格に転嫁されるため、国民を守ることにつながらないし、消費者の立場から見て望ましい結果にならない」と強調している。
(原文)
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/un-american-america/
スリランカ:
https://www.dailynews.lk/2025/04/09/editorial/758932/trade-wars-are-futile/