米国が「パリ協定」離脱 気候災害の被害に苦しむアジア諸国の声
先進工業国の無関心が招いた惨事に直面する途上国

  • 2025/3/19

 トランプ米大統領は今年1月の就任時に、地球温暖化対策に関する国際的な取り決めである「パリ協定」からの再離脱を宣言した。

 パリ協定は、2015年に国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択され、米国も参加したが、2017年にトランプ大統領が離脱を宣言。2021年にバイデン政権下で復帰していた。トランプ大統領は、化石燃料の規制緩和、石油などの生産拡大など、温暖化対策とは逆行する政策を打ち出している。

(c) Markus Spiske / Pexels/

温暖化対策は「不公平」

 インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは2月11日付で、「なぜ私たちはパリ協定にこだわらなくてはならないか」と題した社説を掲載した。

 インドネシア国内では、気候変動対策に対する疑問の声が上がっているという。「二酸化炭素排出の責任が大きい米国が気候変動対策の合意に従わないのであれば、なぜインドネシアが従わなくてはならないのか」という反発だ。

 社説によると、エネルギーおよび環境に関する大統領特使として2024年11月にバクーで開催されたCOP29に参加した実業家のハシム・ドジョヨハデイクスマ氏が、「インドネシアもパリ協定を離脱すべきだ」との姿勢を示し、多くの人を驚かせた。ハシム氏は、プラボウォ大統領の実弟でもある。

 ハシム氏はこう主張する理由として、「インドネシアは、米国のように排出量がはるかに多いにも関わらず気候変動対策の取り組みに消極的な国々から石炭火力発電所の閉鎖を求められている。このような構造はあまりにも不公平だ」ということを挙げた。

 しかし、社説はこの発言について真っ向から反論し、こう述べた。「ネットゼロ排出量に向けて、またエネルギー転換を公約する政府の一員として、そもそもこのような発言はすべきではない」。

 さらに、「トランプ大統領の非科学的な暴言に屈して、気候危機の緩和に向けた世界的な取り組みを監視するパリ協定から離脱するなど、断じてあってはならない」と、強く批判している。

 社説もパリ協定の「不公平さ」は認めている。しかし、だからといってパリ協定から離脱することが正当化されるものではないといい、こう訴えている。

 「地球の温度が上昇すればするほど、世界各地で異常気象が頻発する。インドネシアでは、2024年だけで6000件以上の気候関連の災害が発生した。インドネシアは条約から撤退するのではなく、交渉の場におけるパフォーマンスを向上させるべきだ」

多発する「気候難民」

 一方、気候変動の影響で住む土地を追われる「気候難民」も、新たな課題として浮上している。バングラデシュの英字紙デイリースターは2月22日付で「気候難民を保護せよ」という社説を掲載した。

 社説は、気候災害で移住を余儀なくされた人々が、移住先で賃金の不払い、移動制限、劣悪な環境、身体的な暴力など、さまざまな苦難に直面している事実を指摘する報告書を紹介した。例えば、サイクロンや洪水による被害に見舞われたある県では、全世帯の約8割が職を求めて都市部に移住したが、その多くは「搾取されている」という。また、彼らの88%が親類や家族の誰かを海外に出稼ぎに送り出しており、移住労働者となった人々の多くは劣悪な環境下で働くことを強いられているという。

 社説は、「気候難民となった人々が直面する問題に対処し、社会復帰を支援するための対応が急務だ。またインフラ整備を行い、災害に強い町をつくることで、気候難民を減らすことも重要だ。これは政府にとって最優先事項である」と主張する。

                   *

 バングラデシュ、パキスタンなど、気候災害で甚大な被害を受けている国々は、二酸化炭素排出など気候変動に大きな責任を持つ先進工業国に対し、「公平な負担」を求めている。米国がパリ協定を離脱し、化石燃料の活用に逆戻りすることは、こうした途上国にとって、軍事力を用いない「攻撃」に近いものがあるだろう。

 「離脱ではなく、交渉の場でパフォーマンスを向上させよ」というインドネシア紙の冷静な指摘を、特に先進諸国には肝に銘じてほしいと願う。

 

(原文)

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/02/11/why-we-should-stick-with-paris-agreement.html

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/climate-refugees-must-be-protected-3830131

 

 

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