食へのたゆまぬ情熱が切り開いた人生
個人が作った調味料がケニアの大手スーパーに並ぶまで
- 2020/4/8
市場拡大に向けた資本獲得交渉
創業当時、テイストアフリーク社は各地の高校と契約を結んで給食の配送も手掛けていた。この事業は昨年、指導要領が変更されて配送が原則として禁止されたことで諦めざるを得なくなったとはいえ、同社は今なお11人の従業員と共に、順調に事業を拡大し続けている。
現在のラインナップは、チブンディロ(甘口、普通、辛口)に加え、シリヤチャイ(お茶用)、シリヤムチュジ(シチュー用)、シリヤピラウ(焼き飯用)の6製品だ。いずれも、ケニア人なら誰もが日常的に口にする味で、価格は大きさと種類によっても異なるが、10シリング(約11円)から700シリング(約770円)程度。ケニアで最大級のFacebookグループと組んでマーケティングしたり、ナイバス、タスキス、クイックマート、フードプラスといった大手のチェーンスーパーで実食販売を行ったり、オンラインでの販売を展開したりといった努力の甲斐あって、瓶詰は月に約5,000個が売れているという。
それでも、人口5,000万人を擁するケニアの市場規模を考えれば、同社の販売規模はごく一部に過ぎない。だからこそキティさんは、現在、「あらゆる家庭に製品を届ける」というミッションを実現すべく、粘り強くマーケティングを行う一方、ベンチャーキャピタルを通じて資本獲得の交渉を続けている。
「ケニアでは、人口5,000万人のうち、100万人の消費者を獲得できれば、一大ビジネスとして確立されます。それが、私たちが目指すゴールですね」と、彼女は話す。同社の製品を市場に普及し、大きな資本が得られれば、より効率的な商品の普及と事業の拡大に向けて確かな追い風になることは間違いない。
埋もれた商機を掘り起こせ
まずい給食を何とかしようとして作り始めた調味料が大手スーパーの商品棚に並べられるほど成長した事例は、数少ない。絶え間ない改良と地道なPR活動によって信頼を獲得したテイストアフリーク社は、料理に対する熱い情熱によって可能性を切り開いてきた。同時に、ケニア市場にはまだいたるところに商機が埋もれていることも示唆していると言えよう。
その反面、零細企業が事業の拡大を図ろうとした際、投融資へのアクセスが限られていたり、金利などの条件が悪かったりといった同社が直面している数々の課題は、残念ながら、ケニアではごくありふれたものである。こうした課題を解決するため、近年、外資が地元零細企業に積極的に投資を行うといった動きも見られる。
歴史を紐解けば、ケンタッキーフライドチキンに代表されるように、一個人が改良し始めた味が、その後、市場を席捲した事例もある。「伝統的、かつ革新的な調味料をあらゆる家庭に届ける」というミッションを実現するためにはさらなる成長が必要であるとはいえ、食に対するキティさんの情熱が今後のマーケットを変えていくことは確かだ。