今田哲史監督作品「迷子になった拳」
「地球上で最も危険」なミャンマーの格闘技に見た人間ドラマ 

  • 2021/3/29

「作品を通じて両国をつなぎたい」

 今年2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが発生した。非常事態戦宣言が発令され、全土で抗議デモが行われているが、軍の弾圧は日に日に強硬さを増し、連日、多くの市民が亡くなっている。撮影でお世話になった競技者たちも複数拘束されたと聞いて心を痛めていた中、今田監督はある知らせを聞いて驚いた。大会禁止の通達が出ているにも関わらず、カレン州でラウェイの興行が続けられているというのだ。この2カ月間で少なくとも10試合が開かれたという。

勇猛なことで知られるカレンの選手 ©映画「迷子になった拳」製作委員会

 カレン族は135の民族の中でも特に勇猛なことで知られ、冒頭のウィン会長をはじめ、優れたラウェイ選手を数多く輩出している。独自の伝統と文化を守るために独立を求め続け、今回のクーデターにもいちはやく抗議の意思を示した。そんな彼らが今もラウェイを闘い続けていることに、「まるで軍に従わないという意志表示のようだ」と感じた今田監督。真実は分からないものの、カレンの人々の誇り高さとラウェイという競技に、これまで以上に強く惹かれるようになった。

撮影で訪れたミャンマーでは、あたたかい笑顔と優しさに触れた ©映画「迷子になった拳」製作委員会

 撮影で訪れた時に見たミャンマーの姿と、今、フェイスブックで目にする現状はあまりに違うが、「ミャンマーから選手たちが来日できず、日本でのラウェイ興行も休止を余儀なくされている中、作品を通じて両国をつなぐことができたら」と、力を込めた。

 

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