廃墟の中の「レジリエンス」 政変後のネパールに変化の兆し
不満を爆発させたZ世代 破壊した社会を再構築する担い手になれるか
- 2025/10/19
ネパールの首都カトマンズで9月8日、若者たちによる大規模な抗議デモが発生した。政府がフェイスブック、ユーチューブ、ワッツアップ、インスタグラムなど、26種類の主要なソーシャルメディアを禁止したことがきっかけだ。怒りを爆発させた若者たちが始めた抗議デモは、瞬く間に全国へと拡大し、議会、官庁、高級ホテル、主要政治家の自宅などが次々に放火される事態へと発展した。また、デモを鎮圧しようと出動した治安部隊と衝突し、50人以上の死傷者が出た。事態の悪化を受けてオリ首相は9日、辞任した。
現地からの報道によれば、ネパール政府はSNS運営企業に対して「偽情報対策」の一環で事前登録を義務付ける通達を出しており、登録が完了していないサービスを遮断した、としている。デモの拡大を受けて政府はSNSの禁止措置を撤回したが、事態を収束することはできなかった。
今回の抗議デモの背景には、若者たちを中心に政府や政治家への大きな不満が広がっていたことが挙げられる。特に、汚職や縁故主義(ネポティズム)に対する憤りは強く、経済格差の象徴とも言える「ネポキッズ」、すなわち親や親族の権力の庇護のもとで裕福な生活を送っている若者たちへの批判が爆発した格好だ。

ネパールのカトマンズで、政府によるSNS禁止措置をきっかけに反汚職デモが激化し、治安部隊により19人が殺害された。その後、外出禁止令がつづく中、地域住民たちがデモで破壊された運輸管理局を清掃していた。 2025年9月10日撮影、(c)ロイター/アフロ
連鎖する政治腐敗に対する憤り
ネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは、数回にわたってこの政変に関する社説を掲載している。
まず、9月11日には、「Z世代、今こそ団結を」と題し、「今回の政変で“ネパール政治における世代交代”と“クリーンで効果的な統治”が実現するのではないか」との期待を示した。そのうえで、「そのためには、政変の主役となったZ世代が“腐敗した勢力”ときっぱり手を切り、信頼できる若者の代表を政治の世界に送り出さなければならない」と主張し、「それこそが、今回、犠牲となった若者たちへの最大の追悼になる」と述べている。
さらに社説は、今回のネパールの政変と、2024年8月にバングラデシュで起きた政変の類似点も指摘する。バングラデシュの政変では、反政府デモが数週間にわたって続いた末に、当時のシェイク・ハシナ首相が辞任に追い込まれた。この反政府運動の中心になったのは、やはり経済格差や不公平感に対する学生や若者たちの憤りだった。
ネパールでも、バングラデシュでも、抗議デモの背景には、今日の社会をつくってきた上の世代による政治の腐敗に対する強い不満があったと言えよう。
公共サービスを支えた国民
では、政変後、ネパールはどう変化しているだろうか。
9月18日付の社説「廃墟の中のレジリエンス」には、政変後のさまざまな動きの一つとして、ネパール国民の興味深い行動が描かれている。
今回の反政府運動は全国に広がり、暴徒化したデモの参加者たちは、地方政府を含む多くの庁舎を破壊した。社説によれば、全国で300棟以上の地方政府の庁舎が灰燼(かいじん)に帰したという。「暴徒たちが車両や事務用機器など数百台に上る製品に無差別に放火したことで、公務を運営するために必要な品々がなくなり、重要な公的サービスが停止した」と、社説は伝えている。さらに、政府は公共インフラの復興に1000億ルピー(約1700億円)を投入する計画を発表したものの、この予算が各地方自治体に届くには時間がかかりそうだという。
そんななか、多くのコミュニティーや個人が自発的に動き始め、地方政府の建物の清掃や修復、再建に取り組んでいるという。
「たとえば、ネパール第二の都市ポカラでは、33区のうち26区の区役所が焼失したが、住民たちはほうきやシャベルを手にがれきを片付け、壊れた機器を回収した。さらに、復興活動を主導する市民委員会まで結成したため、抗議デモの被害が甚大だったにも関わらず、複数の区で数日以内に業務が再開された」と社説は伝えている。
また、住民だけでなく、民間セクターもコンピューターや仮設施設などの資源を提供し、政府の公的サービスを維持するために協力する動きが見られるという。
「国家の危機に真っ先に対応したのは、国民だった。地域社会は、公共機関を自分たちのものとして支えようとしている」「国民がこれほど政府に近づいたのは、数十年ぶりである。今後は、政府をコミュニティーの監視役として見るだけでなく、公共機関と手を携えながら政策の円滑な実施に向けて取り組むべきだ」と、社説は呼びかける。
Z世代の命懸けの闘いによってネパール社会にもたらされた大きな変化。地元の英字紙と同様に、国際社会の一員として、期待とともにその行方を見守りたい。
(原文)
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2025/09/11/gen-z-all-together-now
https://kathmandupost.com/editorial/2025/09/16/keep-the-flame-burning
https://kathmandupost.com/editorial/2025/09/18/resilience-amid-ruins












