インドとパキスタン アメリカの仲介で停戦合意するも対立収まらず
停戦の仲介はトランプ外交最大の成果となるか
- 2025/6/22
インドとパキスタンの国境地帯での衝突をめぐり、アメリカのトランプ大統領は5月10日、自らの仲介によって、両国が即時停戦に合意したと発表した。両国政府も合意を確認し、核保有国である国同士の衝突は、いったん回避された。
今回の衝突のきっかけとなったのは、4月22日にインドのカシミール地方パハルガムで発生したテロ事件だ。インドはパキスタンを非難し、パキスタン領内のテロ拠点を空爆。これに対し、パキスタンはミサイルやドローンによる報復で応戦するなど、両国の緊張は一気に高まっていた。
トランプ外交、ようやく「勝利」
ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、5月11日付で「アメリカの『切り札』」と題した社説を掲載し、インド・パキスタンの停戦を仲介したアメリカの意図について論じた。
社説は仲介の背景にあるトランプ大統領の思惑について、「ロシアとウクライナの仲介に失敗したうえ、パレスチナ問題でもイスラエル首相の強硬姿勢が強まっていることに不満を抱き、外交上の勝利を必死に求めていた大統領が、ようやく今、その勝利を手にした」との見方を示し、次のように述べる。
「米国の介入は功を奏した。停戦は、非常に脆いものではあるが、2期目のトランプ大統領にとっては外交上の最大の成果となるかもしれない」
社説は、インドとパキスタンの停戦について、「南アジアにとって大きな安心材料だ」と歓迎するものの、今後については予測困難だと言う。というのも、今回の仲介をパキスタンは歓迎している一方で、インドは快く思っておらず、構造的な対立は解消されていないからだ。インドは、4月22日のパハルガムでの観光客に対するテロ攻撃以降、パキスタンへの支援を「テロへの支援」だと位置付け、各国にパキスタンを孤立させるように働きかけている。社説は「このインドの動きは今後も継続されるだろう」と述べ、さらなる衝突を懸念している。
パキスタンは停戦を歓迎
当事国パキスタンの英字紙ドーンは、5月12日付で「今後の道筋」と題する社説を掲載。ネパール紙が指摘した通り、「パキスタンは今回の停戦を歓迎し、より長期的な休戦へと発展させるべきだ」という考えを示している。
社説は、トランプ大統領がカシミール紛争の解決に向けて引き続き仲介していくことを申し出ていることを「歓迎すべきだ」としたうえで、「80年近くにわたり続いてきたこの紛争について大きな判断を下せるのは、当事者のパキスタンとインドだけだ」と断言している。
「良いテロリストは存在しない」 インドの主張
一方、インドの英字紙タイムズ・オブ・インディアは、5月22日付で「パハルガム、ワシントン」と題する社説を掲載。アメリカのワシントンDCで、イスラエル人外交官2人が5月21日、パレスチナ解放を叫ぶ容疑者に射殺された事件をとりあげた。
社説は、この外交官殺害に憤るトランプ大統領に対し、4月22日にパハルガムで起きた観光客殺傷事件を引き合いに、「インドでもテロが起きている」と訴えた。そして、アメリカがバイデン政権下でパキスタンへの支援や武器供与をしてきたことについて、「テロ組織への支援にほかならない」と強く批判した。
「インドの立場は一貫している。良いテロリストは存在しない」。社説は「アメリカがテロリスト排除の姿勢を貫くなら、パキスタンを支援すべきではない」と強調し、対パキスタン支援を再考するよう訴えている。
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今回のインドとパキスタンの停戦に、確かにアメリカは大きな役割を果たした。しかし、両国間の根本的な対立の解決には至っていない現実が、これらの社説は浮き彫りにしている。
(原文)
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2025/05/11/america-s-trump-card
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1910473/the-way-forward
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/pahalgam-washington/