パレスチナのガザ地区で医療支援を行う安藤恒平医師に聞く
6度にわたる現地入りで目の当たりにした現地の極限状況

  • 2026/3/5

より良い治療を提供するために日本にできる支援

 関根: これまでの派遣で身の危険を感じた瞬間はありましたか。

安藤医師 危険だと思っているうちは、まだ大丈夫なのかもしれません。本当に危険な時には、もう死んでいるのではないか——極端に言えばそんな感覚なので、「ないと言えばないが、なくはない」といったところでしょうか。

関根: それでも、また次も行こうと思うのはなぜですか。

安藤医師 より良い治療をしたいからです。物資が限られた環境で整形外科治療を行うことは非常に挑戦的であり、世界的にもまだ確立していない部分があります。医師としてより良い治療に挑戦したい。その気持ちが大きいです。

同僚たちと笑顔を見せる安藤医師(右端) ©IRCR

 

関根: 厳しい現場ですが、日本から個人や企業が整形外科の領域に対してできる支援があるとすれば何でしょうか。

安藤医師  医療物資を入れるロジスティックスは重要です。加えて、何が必要かというニーズ調査も欠かせません。

 ガザ情勢が今後どうなるのか、まだ見通せませんが、見えた時に素早く動けるスピード感が何より必要です。アイデアがあっても資金を得られるまでに時間がかかって、結局、動けないことも少なくありません。「パッと動ける」仕組みが必要だと感じています。

関根: 先日、日本に一時帰国した際、ガザの現実が伝わっていないと感じる場面はありましたか?

安藤医師  日本は絶妙なバランスの上に成り立っており、何かが崩れると、機能不全が連鎖的に起きる可能性があります。南海トラフのような災害への対策など、危機管理が十分なのかと考えることがあります。

 ガザの人々が置かれている状況は過酷ですが、現地では、皆が必死に「今」と「未来」を考えていると感じます。日本でも、いつ何が起こるか分かりません。安全な場所から眺めているだけでなく、自分たちも当事者になり得るという意識は常に必要です。たとえば物資が不足している時の医療のあり方に関する知見は、日本の災害医療にもつながるかもしれません。

関根: 自然災害だけでなく戦争状態も想定していますか?

安藤医師  500年、1000年という長い目で見れば、起こり得ると思います。

関根: まもなく7回目のガザ渡航を予定しているとのことですが、今後も数カ月に一度のペースで現地に入る予定でしょうか。

安藤医師  それは分かりません。後任の育成も必要なので、私の代わりに現地に入ってもらうことも含め、より良い治療のための改善策や、データを取って質を上げるクオリティマネジメントも考えています。

 現地の人たちの回復過程を把握し、改善点を考えることが大切であり、私自身は最近、そこに力を入れています。

赤十字野外病院の待合室の様子 ©ICRC

関根: 最後に日本の人々、特に若い世代へのメッセージをいただけますか。

安藤医師  難しい質問ですが、人生は何が起こるか分からないからこそ、まずは今をしっかり生きることだと思います。加えて自分の足で歩き、自分の目で見て、自分の手で触れ、想像力を豊かにすることも大切です。未来の選択肢をたくさん想像できれば、それだけ対応できる幅が広がります。そういう力が広がれば、世の中はもっと平和に近づくと思います。

関根: 本日はありがとうございました。

 

◆赤十字野外病院◆

 赤十字国際委員会(ICRC)と日本赤十字社を含む11の赤十字社が、パレスチナ赤新月社(PRCS)と連携して2024年5月9日にガザ南部のラファに開設した全60床の野外病院。緊急外科、産科・婦人科、新生児・小児科、外来部門を備え、1日あたり約200人の診療が可能。PRCSの緊急医療活動を補完・支援し、イスラエルとガザで続く戦闘による膨大な医療ニーズに対応している。https://www.jrc.or.jp/international/news/2024/0514_040767.html

 

 

執筆者プロフィール

(せきね・けんじ)ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役、一般社団法人 国際平和映像祭 代表理事。ベロイト大学経済学部卒。大学の卒業旅行の途中、偶然訪れた紛争地で世界の現実を知り、後に平和実現が人生のミッションとなる。2002年、世界の課題解決を事業目的とするユナイテッドピープル株式会社を創業。2009年に映画事業を開始した。2014年より誰でも社会課題・SDGsテーマの映画上映会を開催できる「cinemo(シネモ)」を運営開始。映画『もったいないキッチン』プロデューサー。2021年よりピースワイン事業「ユナイテッドピープルワイン」も手掛けている。趣味はカヤックフィッシング。

 

 

 

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