フィリピンでドゥテルテ前大統領が逮捕 マルコス現大統領との権力争いか
地元紙は「ついに審判の日がきた」 と報道
- 2025/4/21
フィリピン大統領府は3月11日、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領(79)が逮捕されたと発表した。逮捕は、国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状に基づく。ICCは、ドゥテルテ氏が進めた麻薬撲滅対策を巡り「人道に対する罪」の疑いで逮捕状を出していた。
麻薬犯罪の容疑者として少なくとも6000人が殺害
この逮捕について、フィリピンの英字紙フィリピン・デイリー・インクワイアラーは、3月12日付の社説で「ついに、待ちに待った審判の日がやってきた」と書いた。
「数十人の警察官に囲まれながら、熱狂的な支援者から離れた場所で殺人犯を自認する男が平然とチューイングガムをかむ姿は、長年の願いがついにかなった満足感を与えてくれる」。社説の書きぶりには、ドゥテルテ前大統領の「麻薬戦争」に対する強い怒りがにじむ。社説によれば、ドゥテルテ前大統領がダバオ市長だった2011年から、大統領に就いた2016年までの6年間を含め、少なくとも6000人、人権団体によれば2万人近くの人々が麻薬犯罪の容疑者として殺害されたという。当時の報道によれば、幼児が巻き込まれて犠牲になったケースもあった。社説は「遅すぎる報復」だと記している。
フィリピン政府は、ICCが人道に対する罪の疑いでドゥテルテ前大統領に関する調査に着手した後の2019年にICCを脱退しているが、加盟期間中については罪を問うことができることから今回の逮捕が実現したという。
一方で、今回の逮捕の背景には、現大統領のマルコス家とドゥテルテ家の権力争いもあるといわれている。現在のマルコス大統領は、2022年にドゥテルテ氏の後任として就任。副大統領はドゥテルテ氏の娘サラ氏であり、両家は二人三脚で大統領選を勝ち抜いたと言える。しかし、その後、関係は悪化。2024年には、サラ副大統領が「マルコス大統領の演説は聞かない」と発言するなど、対立姿勢をあらわにしていた。
今年はフィリピンの中間選挙年にあたり、サラ副大統領は次期大統領の座を狙っていると見られていた。しかし、フィリピン下院議会は今年2月、機密費の不正使用の疑いがあるとして、サラ副大統領を弾劾訴追した。5月の中間選挙後に上院で弾劾裁判が開かれるが、そこで罷免が決まればサラ氏は副大統領職から追放され、公職に就けなくなる。加えて父親の逮捕で、サラ氏の大統領選出馬の可能性は摘み取られたように見える。
「戦争の最初の犠牲者は真実」
同じインクワイアラー紙は、3月21日付の社説でも、ドゥテルテ氏逮捕の話題をとり上げた。
社説は「戦争の最初の犠牲者は真実である」という格言を冒頭に置き、ドゥテルテ氏の関係者が、逮捕や身柄引き渡しにあたって「雪崩のようなフェイクニュースと誤報を流した」と非難した。社説はこうしたフェイクニュースを「真実に対する組織的な攻撃」だと指摘。その攻撃の先頭に立つのが、ドゥテルテ氏の取り巻きである「2人の著名な弁護士」であり、法の守護者であるべき人物だとしている。
社説は、「フィリピン人はフェイクニュースに影響されやすい」と指摘し、「識別力や批判的思考力の欠如、そして事実を受け入れることを頑なに拒む姿勢が、この国を二極化させ、政治的な成熟を妨げている」と述べる。
一時は国民の熱狂的な支持を受けたドゥテルテ前大統領の今後の審判の行方が注目される。
(原文)
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/181552/day-of-reckoning-comes-for-duterte
https://opinion.inquirer.net/181783/when-lawyers-become-liars