「感染症のように」国境を越えて広がる特殊詐欺犯罪
未来ある若者たちを絶望させないために

  • 2025/4/18

 ミャンマー東部カレン州ミャワディにある複数の犯罪拠点で日本人を含む多くの外国人が中国人犯罪組織により特殊詐欺に加担させられていたとみられる事件は、日本でも大きく報道された。これまでに3000人以上の外国人が解放された模様だが、まだ多くの人たちがその場に残されているとみられている。

バンコクで開催された中国、ミャンマーとの通信詐欺撲滅に関する3カ国会議の後、報道陣の取材に応えるタイのマリス・サンギャンポンサ外相(2025年2月28日、タイで撮影)(c) ZUMA Press/アフロ

タイは救出や本国送還の遅れに危機感

 タイの英字紙バンコクポストは、3月16日に「ミャワディの詐欺の被害者は依然として取り残されたまま」と題した社説を掲載し、現状を報じている。

 冒頭で社説は、「ミャワディの詐欺都市に対する社会の関心は薄れつつあるのかもしれない」との見解を示す。社説によれば、特殊詐欺現場の取り締まりが始まると、犯罪を主導していたとみられる被疑者は逃亡し、推定7000人の被害者を置き去りにしたという。彼らは今後、順次、保護されて本国に送り返されることになるが、それが「なかなか進まない」という。なぜか。社説はその理由として、捜索を担う少数民族勢力「国境警備隊(BGF)」が資金難に陥っていることが一因だと指摘する。

 今回、特殊詐欺拠点となった地域は、2017年にBGFが中国企業と合弁で経済特区として開発したといわれている。当初は娯楽施設やホテル、空港などを備えた「国際都市」を掲げたものの、犯罪集団が流入したため、一度はここでの事業は差し止められたが、2021年に国軍がクーデターで実権を握ると、差し止めはうやむやになり、再び開発が始まった。

 バンコクポストの記事によると、BGFは資金不足を理由に被害者への支援を拒んでいるという。また、それゆえに本国送還もままならず、新たな救出も遅れていると指摘されている。

525人に上るインドネシアの被害者

 一方、525人がミャワディへ連れていかれたというインドネシアの英字紙ジャカルタポストも、3月11日付の社説でこの問題を報じた。

 社説は、外務省が発表した被害者の数が当初の366人から525人にふくらんだと指摘し、「想定していたよりさらに深刻だ」と述べる。今回の被害者は、中国の次にインドネシア人が多い、とも報じられているものの、ミャンマーから情報を入手することが難しいため、行方不明になった被害者家族から情報を収集するしかないという。

 被害者たちは、インドネシアからどのようにミャンマーに渡ったのか。社説はその経路を紹介している。

 多くの人々は、インターネット上で目にした「高収入のITの仕事」という求人に飛びついた。彼らは空路タイへ行き、空港で迎えに来た車に乗せられる。長いドライブの後、目的地に到着すると、パスポートを没収された。ここで彼らは、自分がタイの国境を越えてミャンマー・ミャワディにやってきたことに初めて気付いたという。その後は、拷問と暗い部屋での監禁が続き、わずかな飲食物を与えられながら、インドネシアの人々を標的としたオンライン詐欺を行うことを強いられた。詐欺のノルマを達成できなければ、さらに厳しい罰を受けていたという。

 これらの記事から分かるのは、特定の国の人たちだけでなく、日本を含む多くの国の人々が「同じ状況で犯罪に巻き込まれている」という現実だ。日本人も、インドネシア人も、中国人も、エチオピア人も、ブラジル人も、同じようなきっかけで、同じような思惑で、同じような方法で、ミャワディに連れてこられ、オンラインの犯罪に巻き込まれた。そして、世界中に同じような詐欺の被害者を生み出していった。インドネシアの英字紙は、被害者たちがコンピュータを学んだ若者たちであっても、母国の仕事よりも高い給料というだけで巻き込まれていった、と記す。「インドネシアで良い仕事が期待できないから、よりよい仕事を求めてリスクをとるのだ」と、社説は指摘している。

 オンライン犯罪は、まるでコロナの感染症のように、国や言葉や地域を越えて、まんべんなく人間を攻撃する。恐ろしい事実だが、一方で、多くの国が、同じ目線で同じ問題を解決するための手段を共に講じることが可能、という見方もできるのではないか。未来ある若者たちを絶望させてはならない。

 

(原文)

タイ:

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2980881/scam-victims-are-still-stranded#google_vignette

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/03/11/escape-from-myawaddy.html

 

 

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