米中と中ロ、二つの首脳会談が示す中国の狙いとは
複雑な駆け引きと牽制により多極世界の形成を目指す大国の思惑を読む

  • 2026/6/8

 アメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領があいついで中国・北京を訪問し、習近平国家主席と会談しました。世界の注目を集めた二つの会談の意味と習氏の真意について、中国に詳しいジャーナリストの福島香織さんが読み解きます。

 

 今年5月、世界が注目する大国の外交ショーが立て続けに行われた。言うまでもなく、米中首脳会談と、続けて行われた中ロ首脳会談だ。アメリカのトランプ大統領が中国を訪れ、帰国した直後に、ロシアのプーチン大統領が中国を訪問。どちらの大統領も、習近平国家主席から最高格付けのもてなしを受け、中国は両国とそれぞれ「新型大国関係」を打ち出した。今回の連続した二つの首脳会談から見える習近平政権の喫緊の外交戦略の変化について考えてみたい。

中国を訪れ、習近平国家主席(左)が北京の人民大会堂で開いた歓迎式典に参加したトランプ大統領(2026年5月14日撮影)© the White House / wikimediacommons

熱烈な歓迎と長時間にわたる会談

 アメリカのトランプ大統領は、5月13日から3日間にわたって中国を訪れた。2017年4月以来、9年ぶりの訪問となったトランプ大統領を、中国の習近平国家主席は熱烈に歓迎した。空港のレッドカーペットや、子どもたちによる歓迎パフォーマンスなどはオバマ大統領(当時)が2009年に中国を訪問した時には用意されなかったものだ。その後の首脳会談も2時間以上続き、2日目には紫禁城の西側に位置する共産党の心臓部、中南海にトランプ大統領を招き入れてティータイムやランチを共にしたり、散策を楽しんだりしつつ長時間にわたって会談した。

トランプ大統領の到着を歓迎する中国の子どもたち(2026年5月14日撮影) © The White House /wikimedia commons

 メディアはこぞってこれを取り上げ、「トランプ大統領が中国式の歓待に篭絡されている」「いや、追い詰められた習近平国家主席がトランプ大統領にこびているのだ」などと報じては、「アメリカと中国のどちらが勝者か」論で盛り上がっていた。なかには、アメリカと中国の緊張関係が緩和したことで、「中国に対する強硬姿勢を崩さない日本の高市首相が梯子を外された」という論調に傾くメディアもあった。

 しかし、筆者の見方は、これらのいずれとも異なる。今回の会談は、アメリカと中国の勝ち負けを決するような会談ではなかった。あえて言うなら、双方が長期戦を見込んで戦略転換を行い、複雑な駆け引きを通じて時間稼ぎを狙ったと考えている。

「不干渉」から「適切な対処」へと転換した要求

 両国首脳の直接会談は、2025年10月の韓国・釜山以来だった。トランプ大統領は当初、3月に訪中を予定していたが、イランとの戦争に手こずり、2カ月延期を余儀なくされた。今回は、一応、イランとの停戦状態を維持できたと判断されたことから訪中が実現した。

 もっとも、もしトランプ大統領の狙いが、中国の包括的戦略パートナーであると同時にエネルギー戦略の要であり、人民元の基軸化や、中東・中央アジアに向けた一帯一路戦略の拠点でもあるイランを完膚なきまでに敗北させてから、優位なポジションに立って習氏と交渉することであったとすれば、その思惑は成功しなかった。というのも、イランとの戦争が不透明化し、長期化しているという事実は中国にとって有利に働き、交渉カードとなったからだ。

北京の天壇で、習近平国家主席とともに「豊作祈願殿」を見学するトランプ大統領(左)(2026年5月14日撮影)© the White House/ wikimediacommons

 さらに中国がこのイランカードやレアアースカードなどを通じてアメリカから引き出そうとしていたのは、経済貿易関係の改善などではなく、台湾問題への譲歩であった。つまり、今回の会談は、台湾問題に対する戦略が両国とも若干、変わってきたというシグナルを世界に発していたのである。

 事実、席上で習氏は台湾問題について「北京とワシントンの関係上、最も重要な課題」「適切に対処すれば両国関係は概ね安定を保つことができるが、適切に対処できなければ摩擦や衝突が起こり、両国関係は極めて危険な状況に陥るだろう」と、恫喝めいた発言をしてトランプ氏から譲歩を引き出そうとした。譲歩とは、具体的には「台湾の独立を支持しない」という発言や、台湾に対する武器の売却中止、台湾有事の際にアメリカ軍が介入しないという言質を取ることにほかならない。

 中国にとって、台湾問題はこれまであくまで内政であり、アメリカに対しては「不干渉」を要求するだけだったが、今回はアメリカに「適切な対処」を求めるという形で関与することを要請した。これは、台湾を中国の内政問題として扱いきれないという、中国にとっては認めたくない事実を認めたに等しい。

「黄埔建校100周年記念式典」に参加した頼清徳総統(中央)(2024年6月16日撮影)© 總統府 / wikimediacommons

 訪問を終えたトランプ大統領が帰国の途についた専用機の中で自国メディアのインタビューに答えたところから推察するに、「台湾独立の不支持」には言及したようだが、武器の売却停止については「するかもしれないし、しないかもしれない」と交渉カードとしてちらつかせ、台湾有事の介入については「答えない」としらばっくれたようだ。それどころか、台湾の武器売却問題については、「台湾の統治者(*筆者注:頼清徳総統を指す)との協議が必要」だと発言し、中国側を激怒させた。これについては、トランプ大統領の交渉術の方が上手と見るべきだろう。

「トゥキディデスの罠」のリスク

 今回の会談でもう一つ興味深いのは、習近平国家主席が日本の高市政権の再軍備化について、アメリカ側が引くほど激怒し非難したという、フィナンシャルタイムズの特ダネだ。その席でトランプ大統領は高市首相を擁護したという。

 これは、この会談で習氏がアメリカと中国の関係について「トゥキディデスの罠」に陥るリスクに言及したことと相まって、中国の思考が垣間見える発言だと筆者は見ている。

 トゥキディデスの罠とは、かつてギリシャの二大都市国家(ポリス)であるスパルタとアテネがペロポネソス戦争に至ったプロセスと同じように、既存の覇権国家と台頭する新興国が互いに脅威と猜疑心を抱き、戦争が避けられない状態になることを指す国際政治学の概念である。ハーバード大学の政治学者グレアム・アリソン教授が提唱した。ギリシャの軍事国家スパルタは、アテネと共闘しギリシャをペルシャから守ったが、アテネの台頭に脅威を感じてペロポネソス戦争が起きる。スパルタはかろうじて勝利するが、その後、ペルシャが巧みな外交でスパルタに近づき、同盟を結んでギリシャを内戦に陥れたことによってポリス社会は瓦解した。この話を今日の世界に当てはめ、ペルシャ役はどこの国かと考えた時、習氏の解釈ではおそらく日本ということになるのだろう。

 彼が「トゥキディデスの罠」を引用した真意は不明だが、多くのチャイナウォッチャーは、中国が傲慢にもアメリカに面と向かって「お前は滅びゆく大国だ」と言い、台湾への「適切な対処」を要請する発言と併せて「アメリカの出方次第では米中戦争もあり得る」と言いたかったのだろうと解釈している。同時に、「疲弊した大国(アメリカ)と軍国主義の再来をもくろむ旧帝国(日本)の同盟によって国際社会は瓦解する」と言いたかったのかもしれない。

米中会談は対立の一時棚上げと時間稼ぎの場

 さて、習近平が珍しくアメリカに戦争をほのめかせるほど激しい言動に出たのは、大国としての自信からきたものではなく、むしろそれだけ追い詰められているのではないか、と筆者は想像する。

 現在、習政権の軍制改革の失敗は隠しようがない状態で、軍は機能不全に陥っている。経済低迷も続いている。当初は2027年までに台湾を武力統一できる実力を備えたうえで、軍事力と経済力を背景に台湾世論を動かし、統一への道を切り開く目論見だったが、それは事実上、潰えている。2027年秋の党大会で政権四期目を目指すには、せめて台湾統一の可能性があると中国人民に信じさせられる空気感を創り出さなければならない。だからこそ彼は去勢を張り、恫喝めいた言葉を駆使し、台湾問題に対する三つのレッドラインをアメリカに認めさせようとしたのだ。アメリカが台湾の頼清徳政権を見放した、というシグナルを国際社会や台湾世論が受け取れば、頼政権率いる民進党の支持率が下がり、次の台湾総統選で政権を交代させられるかもしれない。国民党政権が誕生すれば、台湾統一への期待が中国国内で高まるだろう。とりあえず習近平氏がさらに5年間、政権を担い、軍を再強化して台湾統一を強引に進めることも可能になるだろう。

台湾・民進党を率いる頼清徳総統(2025年12月4日撮影)© 總統府/ wikimediacommons

 一方、時間稼ぎが必要なのは、アメリカ側も同様だ。昨年公表された国家安全保障戦略(NSS)のリポートが示すように、アメリカも中国との戦いは持久戦だと見ており、より直接的な衝突に至る前に、戦いに勝てるだけの体制を整える必要がある(第二次トランプ政権初となるアメリカの外交と安全保障政策文書が公表 | dotworld|ドットワールド|現地から見た「世界の姿」を知るニュースサイト(2025年12月21日付)。それには、艦船の増強をはじめ、中国を排除したエネルギーやレアアース、半導体など、アメリカ中心の産業サプライチェーンの再構築、そして同盟関係の整備なども含まれる。

 こう考えれば、アメリカと中国の今回のディールは決して融和を目指したのではなく、建設的、かつ戦略的な安定関係という名目で対立を一時的に棚上げし、双方が戦争で勝てる体制をより先んじて作ろうとするための時間稼ぎだと見るべきだろう。アメリカが本気で対中関係を改善しようとしているなら、中国からの贈り物や記念品をわざわざこれ見よがしに空港で廃棄して帰ったりしないだろう。

「上限のない戦略的パートナーシップ」を打ち出した中ロ会談

 米中首脳会談が時間稼ぎの交渉の場だったとしたら、中ロ首脳会談はもう少し実質的なものだった。米中首脳会談と違って共同声明が出され、共同記者会見も行われた。エネルギー協力を含む40項目以上の協力協議が調印され、中ロ関係を新型大国関係と呼ぶ「上限のない戦略的パートナーシップ」が打ち出された。

 共同声明では、中国とロシアが「多極世界における重要な中心的勢力だ」と強調され、「覇権主義や一方的な行動に断固として反対し、世界が強権政治へと後退することを阻止する」という表現によって、アメリカに対抗して国際社会の再構築を主導していく姿勢が打ち出された。また、日本が急速に防衛力の強化を進めていることについては、「地域の平和と安定に深刻な脅威をもたらしている」と指摘し、「再軍備の放棄」を要求している。 

中国・北京の人民大会堂で行われた調印式で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と握手を交わす中国の習近平国家主席(右)(2026年5月20日撮影)© 代表撮影/ロイター/アフロ

 習近平政権はアメリカと中国の関係を新型大国関係と定義していたが、ここにきて中国とロシアを新型大国関係として強調するようになった。戦争で疲弊したロシアのメンツを立てるという意味もあっただろうが、中国とロシアがタッグを組んでアメリカ勢に対抗する、というシグナルを発したと言える。

 中国とロシアはもともと長い国境を接する大国同士として、互いに強い警戒心を抱いていた。トランプ大統領は当初、ウクライナのゼレンスキー大統領を悪役にしてでも中国とロシアの離間を狙う動きに出ていたが、思惑は失敗し、両国の絆は健在なようだ。

 一方、アメリカ・フィナンシャルタイムズの報道によれば、習国家主席は米中首脳会談で「ロシアがウクライナ侵攻を後悔している」とトランプ大統領に告げたという。もしもそれが事実であるなら、中国がアメリカとロシアの関係を取りなし、アメリカと中国、そしてロシアという新型大国関係のバランスを中国がコントロールしようとしているのかもしれない。

大国のディールに翻弄される台湾と日本の立ち位置

 最近のチャイナウォッチャーたちは、習氏がアメリカに覇権を取って代わることより、多極世界のキーマンとして関係や対立をコントロールすることを狙っている、としばしば指摘する。華中科技大学マルクス主義学院研究院の王鵬研究員が「習近平外交思想と新時代中国外交」というサイトに最近寄せた論文でも、「中国はアメリカの覇権に取って代わるのではなく、“覇権の論理を超越した新たな役割”を目指すべき」だと指摘。そのうえで、「中国は、複雑な駆け引きのなかで戦略的な安定力を保つことが求められる」と主張している。要は、中国自身も今、単独でアメリカと対峙するだけの自信はなく、おそらく中国とロシアでタッグを組んでも、日本とアメリカのタッグに対抗できる自信はない。だからこそ日本、アメリカ、ロシアの三大国が複雑な駆け引きを行い、牽制し合う形で多極世界を形成することを当面の目標とするということだろう。

中国・北京を訪問し、習近平国家主席の出迎えを受けるロシアのプーチン大統領(2026年5月20日撮影)© Официальный веб-сайт Президента Российской Федерации / wikimediacommons

 ところで、興味深いことに、中国は日本を「新型大国関係」の仲間には決して入れず、駆け引きの相手にすらしようとしていない。日本を中国人民の敵意の矛先とすれば、国内社会不満を吐き出して人民を団結させ、共産党の求心力を維持することができる。また、日米離間を狙うならば日本を悪者にするのが簡単だ。しかも、高市早苗首相はおあつらえ向きのキャラなのだ。

 このような状況下で中国との関係改善を求めて努力したり譲歩したりすることは、全くもって無駄でしかない。日本としてやるべきことは、むしろ大国のディールに翻弄される台湾をはじめ、中小の国々の側に立つことだと筆者は考えている。

 

執筆者プロフィール

(ふくしま・かおり)1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞大阪本社入社。上海復旦大学での語学留学を経て、香港支局長、中国総局(北京)総局員で中華圏取材に従事。2009年に退職し、フリージャーナリストとして中華圏取材を継続している。主な近著に『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房)、『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所)、『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス)、『コロナ大戦争でついに自滅する習近平』(徳間書店)など。メルマガ「福島香織の中国趣聞」(https://foomii.com/00146

 

 

 

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