【タイ・ミャンマー国境の不都合な真実①】写真家らが語る難民の果てなき逃避行
迫害を逃れ、安心して生きられる場所を求めて
- 2022/11/5
“古い難民”に向けられる疑惑
実は、この“古い難民”に対しては、常にある批判がつきまとう。それは、彼らが本当に戦禍を逃れてきたのではなく、第三国への移住などの利益を得るべく、難民のふりをしている、というものだ。確かにこの10年間で、多くのミャンマー難民がアメリカなどの第三国に移住した結果、難民キャンプの人口は16万人から9万人に減少した、とシーゲル氏は言う。
しかし、第三国への移住を望んでいる人ばかりではない、とシーゲル氏は主張する。「私が難民キャンプで出会った人たちの中には、『アメリカになんて行きたくない』と話す人もいます。でも、難民キャンプでは就労が許されず、学校も病院もキャンプの内にあるため、彼らには自由がありません。さらに、第三国に移住した人たちも、移住後に大変な苦労を強いられています。着の身着のままで移住し、英語を学び、仕事を見つけて、社会に統合していかなければならないのですから」。
苦難の中の小さな希望
40年前からタイで暮らしている古い難民と、2021年以降の新しい難民。どちらも、ミャンマーでの苦境から逃れ、安住の地を求めて、終わりの見えない逃避行を続けている。人間的な生活を送ることを保証する生存権を、彼らはいまだに手にすることができずにいるのだ。
しかし、この苦難の国境には、小さな希望もある。軍の迫害を逃れてタイ国境まで来たものの、強制送還を恐れてタイ側に渡河できないミャンマーの国内避難民に対して、地元タイの人々が川を越えて支援を行っているのだ。展示された写真の中には、大量の食料を準備したり、支援物資を乗せたボートで川を渡ったりするタイの人々の姿が捉えられている。

展示された写真の中には、タイの青年たちが、対岸のミャンマー国内避難民に届けるための食事を準備する様子も。撮影したのは、シーゲル氏が創設した、『Visual Rebellion Myanmar(ミャンマー 視覚の反乱)』という、ミャンマー人アーティストが集う、オンライン上のプラットフォーム。軍政からの弾圧を避けるため、メンバーは匿名で活動を続けている(写真展パンフレットより)
アウンナインソー氏は、話をこう締めくくった。
「ミャンマーの状況は日々悪化し、難民たちはタイ政府から追い返されている。それでも、こうして手を差し伸べてくれる良き隣人を持ったことに感謝したい」