戦時中の日系米国人収容を謝罪したバイデン大統領の真意
急増するアジア系へのヘイト犯罪と見えない出口

  • 2021/3/5

米国社会の「原罪」

 筆者は、民主党知事の下で民主党が州議会を支配する西部の州に居住している。今年1月、街を歩いている時に見知らぬ白人の中年男性に「ファックユー(くそったれ)」と暴言を吐かれた。「コロナ持ち」「中国に帰れ」といった発言がなかったため、断言はできないものの、おそらくヘイト発言だと思われる。
 振り返ってみると、数年ごとにこうした経験をするように思う。人種差別を否定していた民主党のオバマ元大統領や、クリントン元大統領の在任中にも、筆者はこうしたことを経験しており、トランプ前大統領が「中国ウイルス」と発言したから急に起きた現象ではない。原因としての「トランプ」や「保守派」にこだわり過ぎると、米国社会における人種問題の本質を見誤るだろう。米国白人の有色人種に対する敵愾心は、本質的には党派を問わず何も変わっていないというのが、筆者の見立てである。

黒人もアジア系も米国の構造的な人種主義の被害者だが、両者は結束しているわけではない© Gabby K/Pexels

 そもそも、大戦中に日本人一世や米国人二世の人間としての尊厳を否定し、あまつさえ強制収容まで行ったのは、民主党のフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領(当時)だった。バイデン大統領が指摘した「構造的人種主義、外国人恐怖症、移民排斥主義」とは、実はリベラル派政党の特徴だったのだ。奴隷解放宣言後も白人と黒人を隔離し続けた南部諸州の政策を支持する人種差別主義者のウィルソン元大統領も民主党だったし、さらに遡れば、黒人奴隷解放を拒否して共和党率いる北軍と戦ったのも、南部奴隷主の党である民主党であった。
 ところが、民主党がこうした過去を総括し、党として謝罪したという話は聞かない。なぜなら、その罪科が単なる謝罪では済まないほど重いからだ。さらに重要なのは、近年、民主党が目玉政策として掲げてきた「犯罪厳罰化」や「貧困との戦争」、「麻薬戦争」、さらに、クリントン政権以降の「自由貿易」や「グローバル化」も、底辺には差別的な人種観、特に黒人に不利な価値観が流れ続けてきた事実が明らかになることを怖れつつ推進されてきたように筆者には思える。加えて、自由貿易やグローバル化によって白人中間層が没落し、その結果として白人至上主義が「解凍」され、人種間対立の激化につながっていることも見逃せない。

若い世代は、前の世代が成し遂げられなかった「結束」を実現できるだろうか © Gabby K/Pexels

 現在の民主党政権が、「あったこと」を「なかったこと」にしようとするために、問題の本質が見えなくなり、ますます解決から遠ざかっている。有色人種に対する敵意や暴力は、米国社会の原罪であり、かつ、歴史的な問題である。その責任を、トランプ前大統領個人や、保守「トランプ党」にだけなすり付けようとすることには、無理がある。
 こう考えると、いうらバイデン大統領が国民に結束を呼び掛けても、元来が人種の分断から始まった国を一つにまとめることは難しいように思えてくる。現在の対アジア系ヘイトは、さらに悪化する気がしてならない。

 

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