中国企業の二面性表す病院の歴史
中国人女性記者が報道番組に込める願い

  • 2019/7/15

 CNPCは、中国大使館の仲介で、このプロジェクトのうち母子保健病棟建設総額の55%に相当する60万ドルを寄附した。CNPCは、1995年にスーダンで石油探査事業を展開し、その後、油田の開発や製油所の建設、パイプラインの敷設など、大規模事業を次々と展開してきた。その一方で、学校や病院、診療所を建設するなど、多くの人道支援事業も手掛けている(筆者注:もっとも、CNPCのスーダンでの活動については、石油資源獲得のために軍事政権を支持する行動として、別の中国企業によるスーダン政府に対する武器売却と併せ、各方面からさまざまな批判もある)。

 母子保健病棟トは2011年に完成し、病院名も「スーダン・中国アブオウシャ友好病院」と改名された。その結果、2010年には年間のべ2万9千人だった病院全体の患者数は、2013年には5万5千人に増加した。2012年からは母子保健に関する地域ネットワークの構築も始まり、プロジェクトは地域の母子保健の改善に貢献している。

 シャロンさんは、そのプロジェクトの効果はもちろん、中国政府が2017年にこの病院を無償資金協力(約300万ドル)で改築・拡張したことに注目する。母子保健棟が手狭になったことから、2011年の設計をベースに中国政府が設備の改修と改善を図ったのである。民間ベースの協力(P to P)を政府ベースの協力(G to G)が補完したわけだが、さらに言うなら、P to Pベースの協力も、中国企業であるCNPCが中国政府に代わって資金提供したことになる。「中国の国有企業は、市場原理で行動するだけでなく、中国政府を代表してCSRを担うという二面性を持っている」とシャロンさんは指摘する。この点は、中国ならではの特徴だと言えるだろう。

SDGsの実践を考える場

 話を聞きながら、シャロンさんの現場主義と、さらに、中国企業に持続可能な活動を促すことでSDGsの推進に貢献しようという姿勢に大いに共感したた。筆者は、2019年秋に職場の大学でSDGsの講義を新たに立ち上げることにしている。この場には、援助機関や日本のNPOなどで活躍する方々にゲストスピーカーとして登壇していただく予定だ。講義を通じて、「誰も置き去りにしない」というSDGsの理念を現場で実践するにはどうしたらいいか、学生たちと共に考えることができたらと思う。そしていつの日か、シャロンさんにもゲストスピーカーとして登壇してもらいたいと願っている。

 

固定ページ:
1 2 3

4

関連記事

ランキング

  1. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  2.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その2024年の受賞作品が4…
  3. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  4. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  5.  2023年10月にパレスチナの軍事組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けて以来、イスラエル軍に…

ピックアップ記事

  1.  中国とフィリピンの対立がにわかに先鋭化し、国際社会の関心を集めている。事態は、実質的に中国の第二海…
  2.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その拠点となるオランダ・アム…
  3.  台湾の頼清徳政権が正式にスタートして一カ月あまり。非党派・非営利団体・財団法人・シンク…
ページ上部へ戻る