秋の「四中全会」で中国の風向きは変わるのか
2027年の第21回党大会を見据えて注目される政治経済の行方
- 2025/8/12
中国共産党の中央政治局は7月30日に会議を開き、来たる10月に党の重要会議である第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)を開催することを決定した。これまで同会議は年に一度、秋に開かれてきたが、2024年は異例の7月開催であったため、2025年も開催が早まるのでは、との予測もあったものの、結果的には従来通り秋に開催される。
今年の四中全会で注目される論点は、大きく3つあると筆者は考えている。第一に、すでに公式にアナウンスされている通り2026年に更新される五年ごとの計画経済ビジョン「15次五カ年計画」(十五五)の審議と可決。第二に、政治局の補填人事の有無。そして第三に、新人事では習近平国家主席の引退を何らかの形でほのめかすシグナルが出されるか、の3点だ。
メインテーマは「十五五」
中国の中央委員会全体会議の慣例としては、第1回(一中全会)で党中央指導部が選出された後、第2回(二中全会)で国務院の指導部が選出され、第3回(三中全会)で中長期の経済方針が打ち出される。そして、第4回(四中全会)ではイデオロギー、第5回(五中全会)では五カ年計画を協議する。しかし、第20期の中央委員会全体会議は、2023年秋に予定されていた第3回(三中全会)の開催が翌24年夏にずれ込んだことで、今年の四中全会は、実質、五中全会と内容が重なる形となった。
はたして、「十五五」でどのような経済目標や計画が打ち出されるのか。低迷している中国経済が現状を脱し、回復基調へと向かうことができるのか、考えてみたい。
五つの統一的な調整方針
「十五五」の核となる方針は、中国で昨年開かれた経済政策の中央経済工作会議で習近平国家主席が打ち出した「5つの統一的調整の必須」(五個必需統筹)に基づいて形成されるはずだ。
このうち一つ目は、「効率的な市場と政府との関係は統一的に調整される必要がある」という方針だ。簡単に言えば、党中央政府による市場のコントロールと景気調整を強めてこそ、ハイクオリティーな経済発展が可能だという考え方である。これはすなわち、市場の開放といった西側の資本主義的な考えを完全否定し、社会主義的な計画経済路線を推進することを意味する。経済利益も党中央政府の権力によって分配される。
二つ目は、「供給と需要の総量が統一的に調整されなければならない」という方針だ。ただし、この需給バランスは、市場メカニズムではなく、共産党のコントロールによって調整される必要がある、となる。具体的には、両新政策(大規模な設備更新と消費品の買い替え)、および両重政策(国家重要戦略の実施と重点分野の安全能力向上)の推進が挙げられている。需給が伸びておらず、党中央による富の再分配が失敗しているという根本の問題に対する反省は、生かされない。
三つ目は、「経済の新たなけん引力を育成し、新旧のけん引力の更新を統一的に調整しなければならない」という方針だ。ハイテク科学技術イノベーションを経済の新たな動力にするとともに、伝統産業を発展させ、スケールアップした新たな未来産業と連携させることで新たな産業革命を促進することを打ち出す。ただし、市場やニーズは無視して、党主導で大々的に予算がつぎ込まれているため、結果的に党上層部と一部の国有企業の利権が肥大するといった問題が起きているのが実態だ。
四つ目は、「成長の最適化とストックの活性化を統一的に調整しなければならない」という方針だ。一部で余剰在庫の問題が表面化しつつあることを背景に、調整する必要があると主張する。だが、それがこれまでの政策の失敗によることを認めていない。
五つ目は、「品質の向上と総量の増加の関係を統一的に調整しなければいけない」という方針だ。これは、平等公正な企業同士の競争に基づく品質向上でも、市場メカニズムによる総量調整でもなく、党の判断で調整すれば必ず癒着と利権の問題が出てくるが、それに対する処方箋はない。
新たに登場した「反内巻」とは
さらに、7月30日に開かれた政治局会議では「反内巻」という新たな用語が登場した。具体的な内容は明らかにされていないが、おそらく「内巻」とは、新エネルギー車の開発をめぐる過当競争や、過剰生産による価格崩壊など、狭い範囲における行き過ぎた競争に巻き込まれる状況を指し、「反内巻」とは、そうした無秩序な競争を抑止するための政策を意味していると思われる。
前述の五つの統一的な調整方針にしろ、この「反内巻」にしろ、党中央が経済に対するコントロールを強化しようとする方向性に変わりはなく、市場のメカニズムや公平な市場競争、公正な税制など、経済調整に頼らずに経済を発展させていこうとする方向性とは真逆の姿勢が強調されると見られる。つまり、1978年に鄧小平政権が経済を近代化するために打ち出した「改革開放路線」からの逆走 は、今後も続くと言えるだろう。

フォード元アメリカ大統領(左)とフォード夫人(右)とともに会談する鄧小平氏 (中国・北京で1975年12月撮影) © Courtesy Gerald R. Ford Library /wikimediacommons
この会議で発表された今年下半期の経済政策では、「マクロ政策は持続し、適時に強化されるべきである」という従来の基調路線に加え、「持続的な発動力と適切なタイミングでのパワーアップ」という新しい表現も用いられた。つまり、経済成長率5%という目標に向けて、下半期には大規模なマクロ政策が打ち出され、さらなる積極財政と金融緩和が行われるものと見られる。ターゲットは、ハイテクイノベーションの推進、消費の振興、マイクロビジネスの支援、そして対外貿易安定という四大領域であろう。
さらに、「反内巻」政策によって、重点産業の整理も進められるだろう。行き過ぎた競争を進める企業を法に従って取り締まることで市場競争の秩序を最適化し、重点的に法治化を進めるという。「行政命令に頼って一刀両断に実施するのではなく、ターゲットを絞って実施する」という表現が使われていることから、過当競争や無秩序な競争が特に深刻だと言われている新エネルギー車産業あたりがターゲットになるのではないか、と見る向きもある。
一方、対外貿易については、アメリカのトランプ政権という不確定な要因を踏まえ、国外との輸出入を手掛ける貿易会社 への融資を強化するとともに、国内取引と対外貿易の一体化を促進するという方針が打ち出されている。つまり、2025年の下半期には、中国からの輸出を手掛ける企業に対する外圧にマクロ政策で対抗すると同時に、輸出還付税の最適化や自由貿易テスト区(無関税地域)のさらなる解放によってハイレベルな対外開放を拡大し、中国国内の産業チェーンや一帯一路、BRICSといった中国陣営地域の一体化を進めるものと見られる。
中国経済回復の処方箋
とはいえ、これで中国経済が現在の行き詰まりからの脱出を期待できるかと言えば、否と考える人が多いだろう。中国が今、直面している矛盾の根本的な原因は、多くの専門家が分析している通り、経済の動きを党中央部が完全にコントロールし、市場原理の作用を抑えて、民営企業の自由を奪おうとする姿勢によってもたらされた。つまり、党中央部の統一的な調整などでは到底、是正できない問題であり、ましてや「反内巻」(無秩序な競争の抑止)といった政策は、加減を間違えば、2020年に不動産業に対して行われた「バブルの抑止」と同様、一つの産業界を完膚なきまでにたたき潰すことになりかねない。かつて中国経済の最大のけん引力だった不動産業界の長引く低迷こそ、中国の現状を引き起こした要因である。もし、不動産業に代わる経済の新たなけん引力として、今、最も期待されている新エネルギー車産業が、かつての不動産産業と同じ轍を踏むことになれば、中国経済の回復はさらに絶望的になるだろう。
中国経済を回復する根本的な処方箋は、経済に対する中国共産党の干渉を減らし、市場メカニズムを自由競争に任せて産業の底力をつけるとともに、国際社会との関係を改善し、海外先進国から投資や技術協力を円満に受け入れることしかない。しかし、そのためには、かつて鄧小平時代に打ち出された改革開放路線に立ち戻るだけでなく、政治改革にも踏み出す必要があるが、習近平政権にその意思は全く見られない。彼にとっては、今の路線を維持するために反対者を大量に粛清し、憲法を変えてまで長期にわたる独裁政権を打ち建てたのだから、いまさら多少の妥協すら受け入れることはできないのであろう。
「ポスト習近平」をにらんだ人事の動きが出てくるか
そうである以上、現在の反改革開放路線を転換して中国経済を救済するためには、早期に習近平国家主席が引退するしかない。来たる四中全会でそうした話が出るのではないかという期待が一方で膨らんでいるのは、そのためだ。
実際のところ、ほとんどのチャイナウォッチャーや識者は、2027年秋に予定されている第21回党大会で習近平氏が四期目の政権を維持することは困難だろうと予測している。習近平路線は、経済面でも、解放軍の改革面でも、国際関係面でも、そして洪水をはじめ災害対策面でも、あまりに失策が多すぎた。自分で抜擢した人事の多くを自分で粛清したことからも、その失策の責任が彼自身にあることは、隠すべくもない。
さらに、習氏の健康問題も、噂レベルではあるが、かなり深刻だと見られている。昨年の三中全会の前後から彼の動静には定期的に不明な時期があり、なにがしかの治療、あるいは検査を受けているからではないかという指摘もある。
10月の四中全会では、十五五の具体的な内容が検討・採決され、中国の大枠の経済方針が打ち出されるだろう。しかし、その方針を真に中国経済の回復を実現できるものにするためには、習氏の引退問題を検討する必要がある。四中全会の席上で、すぐに彼の引退が決まるとは思えないが、少なくとも21回党大会を見据えて「ポスト習近平」をにらんだ人事の動きが見えてくるかもしれない。
そうした意味から、来たる四中全会は、今後の中国の政治と経済の風向きを計る重要な場になることが予想され、国際社会からも 注目を集めている。














