「マイノリティ」の存在を消さないために
バングラデシュとタイの社説からすべての人に公正な社会の実現を考える
- 2022/9/8
国家統計から排除される人々
バングラデシュの国勢調査が実施された。公式結果が出るのは少し先になるが、このほど発表された速報値について、同国の英字紙デイリースターが8月10日付の社説で疑問を投じた。
「今回の国勢調査が正しいなら、バングラデシュの先住民族はこの11年間で6万4,000人しか増えていないことになる。2011年の国勢調査では国内に24の先住民族がいると認定されたが、今回の調査ではその数が50に増えた。コミュニティーの数が倍増している割には、人口の増加が少なすぎるのではないか。先住民族がどんどん減少しているということだろうか」
バングラデシュには、チッタゴン丘陵を中心に、仏教系の先住民族などが暮らしている。社説は、こうした人々の数が正確に把握されていないのではないかと疑問を呈し、理由の一つとして、「非ムスリムの先住民族に対する継続的な暴力があるためではないか」と、指摘する。先住民族に対する差別や偏見が暴力につながり、彼らを社会から排除したり、多数派に同化したりせざるを得ない動きが懸念されるという。
また社説は、こうした調査活動に先住民族のコミュニティーがしっかりと組み込まれていないことを問題視している。
「先住民族のリーダーたちによると、人口の減少は起きていないという。国勢調査は先住民族の正しい現状を反映していない。多くの場合、遠隔地域で調査員が村々を訪ね歩く努力を怠っているのだ」
その上で社説は、「社会の現状を正しく把握できていない事例」として、身体の性と性自認が一致していないトランスジェンダーの人々の数も過少に報告されている」と主張し、「社会の少数派が国家統計から排除されるという事態を起こさないように、確実なプロセスが必要だ」と訴えた。
性的少数派をめぐる変化のきざし
トランスジェンダーなど「性的少数者」については、東南アジア各国でも8月までにさまざまな動きがあった。
タイの英字紙バンコクポストは、8月28日付の社説で、タイを含む国々における性的少数者に関する動向をまとめている。それによれば、タイ政府は7月、同性婚を認める「市民パートナーシップ法案」を承認した。法案が成立すれば、同性婚が公式に認められるという。
また、シンガポールでも8月下旬、それまで男性同士の同性愛行為を犯罪に指定していた刑法の条項を廃止する方針が発表された。「公的または私的な場における男性間のわいせつ行為は2年以下の禁錮刑に処す」と定めていた刑法377A条で、同国が英国の支配下にあった1938年に制定された。しかし、その一方で、同国のリー・シェンロン首相は、結婚については異性間のものに限定することを定めた法律については維持することを示しており、同性婚成立への道のりは、いまだ険しい。
バンコクポストの社説は、東南アジアにおけるこのような「変化」に向けた動きを前向きにとらえながらも、必ずしも各国が人権や自由を全面的に擁護する姿勢ではないと指摘し、「こうした動きが見られる一方で、東南アジア諸国は現在、自由や権利の擁護という観点で見ると、残念ながら警告に値するレベルペースで逆行している」と述べる。
その上で、「たちが悪いことに、こういった動きには“社会秩序を守る”という名目が掲げられている」とした上で、インドネシアにおいて国家元首への侮辱を刑法によって禁じようとする動きがあることや、タイにおいて王室改革が保守派の反対で停滞していることなどを例に挙げた。
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さまざまな変化は、「気づき」から始まる。バングラデシュの先住民族問題にしても、東南アジアの性的少数者をめぐる動きにしても、それぞれの社会がすべての人にとって公正であるためにはどうしたらいいか、というテーマをはらんでいる。改革の歩みが遅すぎることで人々の苦しみは増す。メディアがこうした視点を持ち、論じ続けることが重要だ。
(原文)
バングラデシュ:
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/indigenous-groups-miscounted-census-3091961
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2378508/se-asia-dabbles-with-change