インド総選挙が示した「13%の現実」とは?
「世界最大の民主主義国」の不都合な真実

  • 2024/7/15

 国際社会の注目を集めた「世界最大の民主主義国」インドの総選挙は、6月5日に開票作業が終了し、下院の全543議席が確定した。各報道によると、モディ現首相率いるインド人民党(BJP)は大幅に議席を減らし、単独過半数には届かなかった。この予想外の結果の背景には、経済成長に取り残された低所得者層や、宗教的少数者の不満があるという。

(c) Prakhar Sharma / Unsplash

開票結果が示した「揺るぎない不平等」

 インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、6月7日付で「13%の現実」と題した社説を掲載した。

 「13%」というのは、今回の選挙で当選した国会議員のうち女性が占める割合で、人数にしてわずか74人だという。社説は、この女性議員の少なさについて「政党が女性を擁立するペースが遅い」と述べ、政党側の責任を問う。「総有権者の中で女性は48%を占めるにもかかわらず、国会議員に占める女性の割合が13%というのは、この国の不平等が揺るぎないものであることの表れだ」と社説は批判する。

 また、社説によれば、女性の候補者は全体の10%に満たず、女性候補者が一人もいなかった選挙区も155区あったという。モディ首相が率いる与党BJPには、32人の女性議員がいるが、今回擁立した候補者441人のうち、女性は16%に過ぎなかった。

 ただ、女性議員の人数面では「揺るぎない不平等」を乗り越えられなかったものの、当選した女性議員のバックグラウンドは多様化した、と社説は評価する。これまでの女性議員のような「特定の一族や、華やかな都市部の出自」に加え、さまざまな階層や年齢層に属する女性が当選したという。キャリアを積んだ政治家だけでなく、弁護士や学者、医師、そしてクラウドファンディングで選挙資金を調達した教育者など、その顔ぶれは多様だ。

 社説は「女性の政治参加を促進する責任は、政党にある。女性の候補者をもっと増やさねばならない」と結んでいる。

「子どもを産んで当たり前」の圧力に苦しむネパール女性たち

 一方、ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、「気楽に行こうよ、ベイビー」と題した5月26日付の社説で、女性が直面している問題について取り上げた。

 こちらの社説が扱うのは、女性の社会進出と緊密な関係にある「出産・育児」の話題だ。社説は、「ネパールの社会では、子どものいないカップルを奇妙な存在であり、医学的にも欠陥がある存在として扱い続けている」と、問題提起する。2020年に行われた調査によると、ネパールでは、夫婦が子どもを望んでいなくても、結婚直後から子どもを持つようにとプレッシャーをかけられることが多いという。

 「女性の苦悩の原因は不妊そのものではなく、妊娠に対する社会的なプレシャーなのだ。妊娠できなかった女性のほとんどが、苦悩の主な原因として、家族や社会からの外圧を挙げている」

 ネパールでも、子どもの出生率は低下している。2002年から2020年までの約20年の間に出生率は50%下がったという。「家族計画に対する意識の高まりや識字率の向上、共働き家庭の増加」などがその要因だという。「結婚したら子どもを持つべき」という外圧は、そのような社会現象とは逆行する。

 また社説は、「こうした考え方が薄れつつある都市部でも、女性はいまだにより多くの子どもを産むことを期待されている」と指摘し、「にもかかわらず、ほとんどの組織に産休制度がない」と批判する。そのうえで、「政府が出産休暇を現行の14週間から6カ月に延長しようとしていることは評価できる。実現すれば、仕事と家庭の両立がより容易になるだろう」と指摘。「急速に高齢化が進んでいる日本や中国で見られる急激な人口減少を回避する助けにもなるはずだ」と、期待を寄せる。

 最後に社説は、「結局のところ、子どもを産むかどうか、また何人産むかは、女性が決めるべきであり、進歩的な社会は、そのための環境を整えるべきだ」と、断言している。

 

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/the-13-reality/

ネパール:

https://kathmandupost.com/editorial/2024/05/26/take-it-easy-baby

 

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