アサド政権崩壊後のシリアに根強く残る悲観論 拭えぬ内戦の不安
独裁体制の終焉は新たな未来へのチャンスか、それとも悲劇の再来か
- 2025/1/14
シリアのアサド政権が2024年12月8日、崩壊した。50年あまり続いたアサド父子による強権的な独裁統治は、「シャーム解放機構(HTS)」を中核とする反体制派の武装勢力によって終わりを迎えたが、その後のシリアにまだ安定化の道は見えない。シリアがたどる未来について論じた南アジア紙の報道を紹介する。

シリアのアサド大統領が追放されたあと最初の金曜日となった12月13日、ダマスカス旧市街のウマイヤド・モスクで、新しい統治者が採用したシリア国旗を振る人々。 (2024年12月13日撮影)(c) ロイター/アフロ
「抵抗の枢軸」の弱体化が招いた政権崩壊
インドの英字紙ヒンドゥーは2024年12月10日付で「シリアとその未来について」と題した社説を掲載した。
同紙は、アサド政権が「劇的に転落」した理由として、「彼が直接的にコントロールできない要因があった」と述べ、中東地域において、ハマスとイスラエルの戦闘に伴う勢力図が変化したと指摘した。イスラエルは、シリアを空爆し、シリア軍の戦力を低下させたうえ、アサド氏に支援を続けていたヒズボラとも戦い、弱体化させた。その結果、ヒズボラの支援を受けることが難しくなったアサド政権は力を失っていった。つまり、イスラエルの攻撃により、イランが支援する武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」が劣勢に立たされたことで、彼らと連携していたアサド政権も負の影響を受けたというわけだ。
同紙は、「アサド氏が去ったことで、シリアは新たな未来を築く機会を得た」としながらも、「変革のカギを握る主要なアクターは期待できる状況にない」と、悲観的な分析を示す。
「シリアは、スンニ派、アラウィ派、キリスト教徒、シーア派、ドゥルーズ派など多様な宗教的バックグラウンドをもつ民族が暮らす国だが、反体制派の中核を担うHTSは、それを一つのイスラム国家に変えようとしている。内戦の勝者が国民の旗のもとに団結するのか、それとも共産主義後のアフガニスタンやカダフィ亡き後のリビアのように新たな国家を樹立するのか、今後の動向を見守る必要がある」
社説は、望ましい結果として、暫定政府の樹立、民兵組織の武装解除などを挙げる一方、「シリアの波乱に満ちた歴史、社会の亀裂、民兵組織のイデオロギーなどを考えると、より混沌とした不安定な状況が生まれる可能性が高い。シリアの悲劇だ」と指摘し、今後の情勢について悲観視している。
過激派が権力を巡って争う未来図も
パキスタンの英字紙ドーンも、2024年12月10日付の社説「シリアの未来」で、アサド政権崩壊後のシリアの不透明な未来について論じている。
「シリアの反体制派は、『新しい』シリアの建設を誓ったが、この新しい支配者が民主国家を建設できるかどうかはまだわからない。独裁政権崩壊の熱狂が収まった後、彼らはきちんと機能する行政組織を構築しなければならない」
社説は、シリアが目指すべき国家として「シリアの宗教、宗派、民族グループすべてが自由に暮らせる民主国家」を挙げた。これはHTSが掲げる穏健路線、あるいは宗教的寛容と一致する。しかし、社説は必ずしも現状を楽観視しているわけではない。社説は「権力をめぐって、各派閥が抗争を始める危険性は、現実的なものだ。反体制派内部の過激派が権力を握り、『イスラム国(IS)』と同じことをしようとする悪夢のようなシナリオも考えられる。そうなれば、地域および世界に壊滅的な影響を及ぼす」と警戒している。
寸断された武器輸送ルート
インドの英字メディア、タイムズオブインディアは2024年12月8日付の社説で、シリアの混乱が「イラクのような新たなテロを生み出す可能性がある」と指摘した。
同紙もパキスタン紙と同様に、「シリアでは今、新たな『イスラム国』のクローンが生まれる土壌ができている。アサド氏の追放後、HTSがイスラエルやこの地域の米軍を標的にしないとは言い切れない」と警鐘を鳴らす。
また、今回の事態は「イランにとっての挫折」でもあると指摘。イランは、アサド政権に「多額の投資」をすることで、シリアを経由して、レバノンやガザ地区への武器・人員を輸送することを可能にしてきた。だが、アサド政権の崩壊によって、こうした「抵抗の枢軸」のネットワークが遮断された。社説は、このことがイスラエルを利するほか、イラン国内の穏健派に力を与えるだろう、と分析している。
(原文)
インド:
パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1877837/syrias-future
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/damascus-doozy/