バンス米副大統領が訪印「インドは信頼できるパートナー」
「抜きんでた政治センス」で経験をカバーし、米印の経済関係を強化できるか
- 2025/5/6
アメリカのトランプ大統領による相互関税措置が世界を揺るがすなか、バンス副大統領が4月21日からインドを訪問した。家族を伴った私的な訪問とされているが、初日からモディ首相と会談するなど、政治的にも重要な訪問となった。
インド系のウーシャ夫人と子どもたちとともにニューデリーの空港に到着したバンス副大統領は、礼砲が鳴らされ、米国歌が演奏されるなか、モディ首相の側近であるバイシュナウ情報技術相に出迎えられた。現地の報道によると、バンス一家に寄せられる現地の関心は極めて高く、特にインド系米国人として初めて副大統領夫人となったウーシャさんには注目が集まったという。
ロイター通信によると、同日行われたバンス副大統領とモディ首相との会談ではエネルギー、防衛、戦略的技術分野などでの協力強化が話し合われたほか、貿易協定についても協議のロードマップで合意した。また、地域的、世界的問題についても意見を交わしたという。

インドのナレンドラ・モディ首相は、バンス米副大統領と妻のウシャ・バンス氏、その3人の子どもたちをニューデリーの首相公邸で歓待した(2025年4月21日撮影) (c) Prime Minister’s Office (GODL-India) /wikimediacommons
「ネバー・トランプ派」から「トランプ派」へ変節
バンス副大統領の訪問について、インドの英字メディア、タイムズオブインディアは4月21日付で社説を掲載した。
社説は、バンス氏について「彼が普通の副大統領であれば、これほど注目を浴びることはない。彼は政治的にとても巧妙な人物だ」と、述べた。バンス氏は2016年に発行した自伝『ヒルビリー・エレジー』で「アメリカの繁栄から取り残された白人」を描いて話題になった。だが、彼は「変わった」と社説はいう。
かつて「就職面接にスーツを着る必要があることを知らなかった」ハンス氏は、上院議員を経て副大統領となった今、トランプ大統領との会談にスーツを着なかったウクライナのゼレンスキー大統領を「なぜスーツを着用しないのか」と非難したことに見られるように、「ネバー・トランプ派」から「トランプ派」へと転向したと社説は指摘。上院議員時代には「現実的で思慮深い」と評価されていたが、今やトランプの相棒として攻撃的な役割を担っている、と指摘した。
社説はしかし、この点を非難するのではなく、むしろバンス氏の「抜きんでた政治的なセンス」だと評価しているように思われる。
「彼は、評論家よりも先にトランプ氏の一度目の勝利を正確に読み取った。そしてトランプ氏が苦境に立たされた時は事態を収拾し、一貫して彼を支えてきた。バンス氏は政治家としてまだ4年しか経験がないことを忘れてはならない。彼は、これからも状況に応じて方向転換するだろう」
何が利益か 「研究モード」からの脱却を迫られるモディ政権
インドの別の英字紙、ヒンドゥーは、バンス氏が家族とともにインドを訪れたことを好意的に報じている。
社説は冒頭で、バンス氏が滞在中にカシミール地方で起きたテロ事件に対して連帯のメッセージを発したことに触れ、「ニューデリーで評価されている」とした。
トランプ政権の施策に対してはインドでも批判の声がある。しかし社説は、バンス氏がジャイプールで公開演説に臨み、「トランプ大統領が目指すのは、貿易戦争ではなく、グローバル貿易のリバランス(再均衡)だ」と答え、インドをアメリカとの防衛装備品の共同生産における「信頼できるパートナー」だと位置付けたと報じている。
さらに社説は、バイデン前政権が化石燃料エネルギー生産を削減したことをバンス氏が批判し、トランプ大統領が掲げる「掘って、掘って、掘りまくれ」という化石燃料の増産方針に触れながら、「インドがアメリカから化石燃料をより多く購入すればインドの利益にもなる」と発言したことも伝えている。
そのうえで社説は、これまでインド政府側がトランプ政権の政策を「研究するモード」に徹してきたと指摘。今回のバンス副大統領の訪問を受けて、「米国に何を求めるのか、慎重に検討すべきだ」とインド政府に提言する。中国との貿易摩擦を横目にインド政府がトランプ政権とどのような関係を築いていくのか、注目される。
(原文)
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/hillbilly-ji/
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