イスラエルとレバノンの停戦合意はネタニヤフの勝利か
「戦争疲れ」のイスラエルと問われる戦争犯罪

  • 2024/12/18

 イスラエルと隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘をめぐって11月27日、停戦合意が発効した。両国政府はアメリカの停戦合意案を受け入れ、今後60日以内にヒズボラは勢力範囲であるレバノン南部から撤退し、イスラエル軍も徐々に撤退するという。空白となるレバノン南部にはレバノン正規軍が展開し、停戦監視にあたることになっている。各国の思惑が複雑に絡む中東情勢について、南アジアでの報道ぶりを紹介する。

ブリンケン米国務長官の訪問を受けるイスラエルのネタニヤフ首相 (2024年10月22日撮影)(c) U.S. Embassy Jerusalem / wikimedia Commons

「理にかなった」イスラエルの停戦

 インドの英字メディア、タイムズ・オブ・インディアは、11月26日付の社説でこの停戦についてとりあげた。

 社説は、「イスラエルとレバノンの停戦に続き、ガザ地区でも停戦しなければならない。それはイスラエルにとっても利益になるはずだ」と指摘した。

 イスラエルにとっての利益とは何か。社説は、ヒズボラとの停戦はイスラエルにとって「合理的」な判断だと述べ、その理由として、北のレバノンと南のガザ地区の両面戦争を続ける中で、イスラエルが体制を立て直す必要に迫られていることを挙げる。イスラエル軍はすでに人員不足に直面しており、紛争の長期化による「戦争疲れ」も深刻化しているという。そのうえで社説は、「イスラエルはすでにヒズボラを大幅に弱体化させ、レバノン方面での目的は達成した」と指摘した。

 社説はまた、「今回の北部戦線における停戦によって、ガザ地区における停戦も進むのではないか」と期待を示す。中東地域には、ヒズボラのほかにも、ハマスと連帯する地域組織が存在しており、これらのグループの脅威を排除するには、ハマスとの停戦が必要になるためだ。「ガザ地区で停戦が実現すれば、地域全体の緊張緩和につながる」と社説は主張する。

 さらに、アメリカの姿勢についても言及し、「トランプ次期大統領はイスラエルへの全面的な支持を表明している。だが、トランプ氏は予測不可能だ。ネタニヤフ首相はイスラエルの資源をこれ以上費やさない方が良い」と見る。その意味でも、停戦はイスラエルにとって理にかなっており、社説は現状について「ネタニヤフ首相の勝利」だと表現した。

ネタニヤフ氏への逮捕状

 その一方で、すでに4万人以上の死者を出しているイスラエルの戦闘について、ネタニヤフ首相らの責任を問う声は大きい。ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)は11月21日、ガザ地区における戦闘をめぐる戦争犯罪容疑で、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相、さらにイスラム組織ハマスの軍事部門であるカッサム旅団のデイフ司令官の3人に逮捕状を出した。

 これを受けてパキスタンの英字紙ドーンは11月25日付で、「イスラエルの戦争犯罪」と題した社説を掲載。この逮捕状の発行について「一部の強力な国家がイスラエルを非難から守っているが、国際世論は明らかだ」と述べ、暗にアメリカを批判した。

 さらに社説は、バイデン米大統領が逮捕状について「とんでもないことだ」と非難したことを紹介し、こう述べた。「バイデン氏は昨年、ICCがウクライナ戦争に関してロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した時には、熱烈にこれを歓迎した。今回の同氏の態度は、強国にとって法律が敵に対してのみ適用されるものであることを改めて証明した。しかし、法律は敵味方にかかわらず、平等に適用されるべきである」。

 そのうえで、「イスラエルの指導者たちが実際に逮捕される可能性は低い」としながらも、パレスチナにおける甚大な人道的被害について、「いつかイスラエルの好戦派が裁かれるべきであることに疑いの余地はない」と、断言している。

 

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/beirut-now-gaza/

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1874677/israels-war-crimes

 

 

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