ミャンマー大地震 地元ボランティアの声を通じて見るミャンマー社会
「被災者がいるところが、支援を届けるべきところ」

  • 2025/4/6

 2025年3月28日(金)日本時間15時20分ごろ、ミャンマー中部でマグニチュード7.7の大地震が発生しました。甚大な被害が出ているなか、各国から救援隊が出動し、国連機関やNGOも医療や食料支援を展開するなど、懸命な支援活動が続けられています。学生時代にミャンマーの子どもを支援する団体「ソシア」を立ち上げ、25年以上ミャンマーに関わり、今回の地震後の支援も行っている甲野綾子さんが、被災地の最新状況と、ボランティアが大きな役割を果たしているミャンマー社会の特徴について報告します。

ザガイン市街に広がるがれきの下には多くの遺体が埋まっていると思われる(2025年3月30日ボランティアチーム撮影)

「支援が被災者に届かない」という懸念

 いま、ミャンマー大地震の支援に日本のNGOが多数動いている。ところが、「支援がミャンマー軍に横取りされるのでは」と、寄付を躊躇する日本の方々の声が多く聞かれる。ミャンマーでは2021年に政変が起きて以降、ミャンマー軍と抵抗勢力との紛争が続いているため、支援が届かない、あるいは対立の道具になってしまうのでは、という懸念が生じているのだ。日本のマスメディアでも、深刻な被害とともに、いかに支援が入りにくいかが連日のように報道されている。国際社会も、ミャンマー軍に停戦や協力を呼びかけている。

 しかし、実際は被災者のもとに多くの支援が届いていると強調したい。報道にはあまり出ていないが、国連機関やNGOなどが被災者を支援している様子がSNSなどで発信されている。紛争中の国で、なぜ、支援が届くのか――。そこには、ミャンマーならではの寄付文化・ボランティア文化がある。

ミャンマー中央を縦にのびる断層がずれ、第二の都市マンダレー、首都ネピドーなどの主要都市、および幹線道路沿いの大きな街が壊滅的な被害を受けた。最大都市ヤンゴンからネピドーを通ってマンダレーへ北上するハイエウェーが寸断しているため、支援団体は旧道から迂回しなければならず、物資輸送に時間がかかっている。震源地はザガイン管区とマンダレー管区が隣接する位置にある(黄:ボランティアチーム支援先、オレンジ:首都及び近郊)

被災者を支える、世界一の寄付文化

 ミャンマーは毎年、「世界贈与白書」(World Giving Index)でトップランクに位置付けられ、その寄付・ボランティア文化は世界一と言われる。日常的な寄付や助け合いだけではなく、救急車も地元のボランティアチームが運営するほど、社会の資源になっている。また、14万人が亡くなった2008年のサイクロン・ナルギスでは、国際社会からの援助が迅速に入れないなか、国内の寄付・ボランティアによって、命を救われた人々が大勢いた。

 今回の大地震でも、地元のボランティアがいちはやく動き始め、支援活動で大きな役割を果たしている。ソシアは、現地関係者と相談し、災害救援を専門とするボランティアチームに日本からの募金を託している。彼らには本業が別にあるが、自然災害が起きるとチームを結成する。「寄付金を100%被災者に届ける」がモットーで、交通費は自己負担。集まった寄付金は4月5日までに累計3億チャット(約1000万円)に上り、重機で救援活動にあたっているほか、浄水器とソーラー発電機、水、食料、医療、シェルターの配布などの支援を、ピョーブエ、メティラ、マンダレー、チャウセー、ヤメーティン、ザガインの6地域で実施している。

小型車に支援物資を満載してザガイン市街へ。この日は飲料水と弁当を配布(2025年3月31日ボランティアチーム撮影)

 しかし、そうした情報はなかなか日本に届いていない。そこで、ソシアに寄せられた寄付を被災地に届けてくれているボランティアチームの一人に、現地の状況や救援活動への想いを聞いた。

Q:今、感じていることを教えてください。

 人生初の地震でした。私自身も被災し、経営している車の修理工房が倒壊しました。でも、私よりもっと大変な状況にある人たちがいるので、助けたい――その思いに突き動かされて救援活動にあたっています。私たちにとってこれほど大きな地震は初めての経験なので、不安と恐怖の中にいます。たとえば、家族が倒壊した建物の下敷きになっていると助けを求められても、当局から救助の許可をとりつけたり、優先順位を確かめたりするのに時間がかかることがあります。そのたびに、助けを求めている人を見殺しにしなければならない辛さや苦しさを感じます。また、SNSで話題になっている被災地にボランティアが集まりやすい一方、たとえば首都に近いピンマナーのように、被害が大きいのに人気がない街もあります。すべての被災者に支援が行き渡るには、包括的な支援のコーディネーションが必要だと感じています。

Q:震源地のザガイン管区が抵抗勢力の支配下にあるため入れないと報道されています。

 私たちは自然災害が起きた際に出動するチームで、完全なるボランティアです。交通費などの経費はメンバー間でまかなっており、どの勢力とも交渉し、理解を得ながら、一般の方がアクセスできないところにも支援を届けることを信条としています。建物倒壊がひどいザガイン市街に入るには検問がありますが、さほど厳しいものではありません。私たちは地震発生から3日目に現地に入りました。橋の損傷により重機の通行は許可がおりなかったものの、小型車両は通行でき、多くの支援ボランティアが押し寄せていました。その後、重機も入れるようになっています。どこに行くにも検問所はありますし、支援のために街に到着すると、当局に届けるシステムがあります。都市部の届け出先は、軍管区司令部や警察本部です。なかには、警護にあたってくれたケースもあります。我々が今回活動している範囲では止められたことはありません。

Q:支援活動は、当局の許可がおりるところだけに限られるのですか。

 物理的にアクセスが難しいエリアには行くことができませんが、そうでなければ、支援が必要なところへは、どこにでも行きます。過去に自然災害が起きた時も、どの勢力の支配下であれ、調整や交渉をすれば入ることができました。敵対勢力だと疑われて、銃をつきつけられたこともありましたが、きちんと対話することで理解してもらい、活動できています。どこの地域でも、行くべきところは行こうと思って活動しています。

Q:過去の自然災害と比べて、今回の支援活動はどんな点が難しいですか。被害の状況と見通しを教えてください。

 地震が起きた直後はインターネットがつながらず、道路も寸断されたため、最大都市ヤンゴンから大きな被害が出た古都マンダレーに救助に行けませんでした。特に、震源地に近いザガイン市街は、消防署も全壊し、外部からの一刻も早い救援活動が必要だったにもかかわらず、マンダレーとの間に架けられている2本の橋のうち1本が落ち、残る1本も損傷したため、すぐには通行できませんでした。私たちは、地震から3日後に小型車両での通行を許されました。現在は重機も入れるようになり、がれきの撤去を行っています。地震の発生から48時間以内に到着できた別の現場では6人の方をがれきの下から救出できたのですが、今は残念ながらどの地域でも遺体の回収が中心になっています。

 今回の地震では死者と行方不明者が多数に上り、被害の全容がまだ分かりません。大きな揺れを砲撃だと勘違いし、建物の中に逃げ込んで崩落に巻き込まれた人も多いと聞いています。また、地震発生が金曜日だったため、モスクに礼拝に来ていた方や、仏教寺院に参拝に来ていた方々など、相当数の方が倒壊した宗教施設に埋もれて亡くなりました。今、私たちは重機でがれきの下からご遺体を掘り起こしています。

 水や電気などのインフラもすべて損壊したので、ソーラー発電機や浄水器設置などの活動も続けています。これからも、被災地の状況に応じて、必要な支援を必要な人に届けます。

 

地震後3日めの2025年3月30日、地元ボランティアチームがザガイン市街で物資提供とニーズ調査。2本の橋のうち落ちた古い橋を横目に残った橋を車で渡り、マンダレー方面からザガイン市街へ入った

10年で培われた市民の力と絆 「困ったときはお互いさま」

 インタビューを終え、いま求められているのは、被災者中心の支援だと感じた。届かないのではと懸念するよりも、どうやったら被災者に必要な支援を届けられるかを考え、実行することが重要だ。また、2008年にサイクロン・ナルギスにより大きな被害が出た時と比べ、ミャンマー国内のボランティアの活動が洗練されていると感じた。日本のNGOも当時に比べると数が増えており、それぞれに蓄積してきた地元とのつながりのなかで、スムーズに支援を届けておられると感じている。2011年に民政移管が行われてからの10年間に、ミャンマーの人々の社会を支える力が強化されたこと、そして、NGOや国連機関が彼らとの協力や信頼関係を築いてきたことが、その背景にあると考える。

8割の建物が倒壊したザガイン市街。抵抗勢力が支配するとされるザガイン管区の中だが、マンダレー管区と隣接する市街地は軍が実効支配している(2025年3月30日ボランティアチーム撮影)

 最後に、日本人の目線から伝えたいことがある。それは、2011年の東日本大震災の際、日本は世界でもっとも海外から援助を受け取った国だったことだ。ソシアの支援先孤児院でもバザーをして日本大使館を通じて義援金を届けてくれた。「どうして外国の支援をしなければいけないの? 日本にだって困っている人がたくさんいるのに」という声もまた、海外への支援の際には聞かれる。しかし、困ったときはお互いさま。日本に暮らす私たちも、海外の人々に助け助けられながら、日々を生きている。

小型車に支援物資を満載してザガイン市街へ。この日は飲料水と弁当を配布(2025年3月31日ボランティアチーム撮影)

 そして、もうひとつ。日本に暮らすミャンマー人のみなさんは、東日本大震災でも、昨年の能登の地震でも、炊き出しやがれき撤去など、さまざまなボランティア活動を精力的に行ってくれた。「お世話になっている日本のみなさんに恩返しをしたい」という声も聴いた。そして今、多くのミャンマー人の若者が外国人労働者として、少子高齢化で人手不足が深刻な建設や介護の現場を支えている。彼らは日本社会の一員でもある。さらに、今回、ソシアに募金してくださった日本の方たちのなかには、「ミャンマーで困っていた時に現地の人たちに助けてもらったから、恩返しがしたい」という方がたくさんおり、ミャンマーの人々と、いろいろな形での絆があることを知った。

 物理的・精神的な距離を超えて、目の前に存在する人に手を差し伸べること――。それが、ひいては自分自身も含め、世界中の人々が平和に暮らし、命と尊厳が守られることにつながる。そう、ミャンマーの人たちに教わった。

 

【寄付先を迷われている方へ】 民間の支援団体まとめ

 

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